中国の鉄鋼産業の格差・構造問題

09年経済社会学会年報掲載論文
2009年09月26日

中国の鉄鋼産業による中央と地方の格差問題

-構造問題と企業間の格差においてー

The differentiation and structural problems of Chinese steel industry; focusing on the districts and companies.

柏木理佳(嘉悦大学)

RIKA KASHIWAGI(KAETSU UNIVERSITY)

中国の鉄鋼の生産量は、2007年には4億8900万トンに達し世界全体の36.4%を占めるようになった。前年の2006年の生産量の4億1,878万トンと比較すると15.7%増加した。世界全体の生産量の割合は2006年には33.8%、2005年には31%、2004年には26.2%を占めた。2005年から全体の3割を超えることとなった。2008年には金融危機の影響はあったものの2007年から1%増加し5億100万トンとなった。

年々、鉄鋼生産量は増加している中、政府は、2005年7月中旬に「鉄鋼産業発展政策」を発表し、技術力不足、産業配置の改善、エネルギー消費の引き下げを指摘している。

中国では鉄鋼産業だけでなく国有企業から民間企業への移行段階である産業において、生産の抑制ができない傾向がみられる。その背景には、中国の鉄鋼企業は採算性の悪い中小の鉄鋼企業が7割を占め、それらが地方に集中していることにある。

経済が成長しているアセアン諸国への輸出を中心に銑鉄・鋼塊・半製品の汎用品の需要があるが、今後は生産を抑制できないことが深刻化することが世界への悪影響を及ぼすことが懸念されている。

その大きな問題点には中央政府と地方政府の構造問題がある。中央政府が生産を抑制する政策を何度も掲げてはいるが、財政難に陥っている地方政府にインセンティブがない限り実効性は低い。また未熟な基盤である市場経済が需要と供給に基づいた生産量の正常化が促せない。

本論文では、鉄鋼産業において集約化が進まない地方に存在する旧式設備の中小の鉄鋼企業のおかれている現状と中央に存在する国際競争力のある鉄鋼企業の格差の現状と問題点を分析し、政策を掲げても生産を抑制できない背景と原因を検討し若干の示唆をする。

はじめに

米国の金融危機に端を発し世界的に経済が低迷している中、中国は1978年の改革開放以降、年平均でGDP成長率10%前後の驚異的な成長を続けている。これに伴い中国の鉄鋼の生産量も急激に増加し、2007年には4億8900万トンに達し世界全体の36.4%を占めるようになった。世界全体の生産量の割合は2005年からすでに3分の1を超えるまでになっている。

中国の鉄鋼生産量は過去25年間、前年を上回り、1994年には米国を追い抜き、1996年には日本の生産量を追い抜いた[1]

ところが、2008年12月の国家発展・改革委員会、張平主任が全人代常務委員会の第11次5ヵ年計画綱要の中期実施状況において、経済の構造的矛盾が際立っていることを指摘した。産業構造では工業の成長率が高まっているのに対してサービス業と農業の基礎が脆弱である。経済成長は工業の牽引に依存している。需要構造では内需と外需、投資と消費の構造がアンバランスになっており、中国の経済成長は投資と輸出の牽引に過度に依存している。

さらに中国政府は、2005年7月中旬に「鉄鋼産業発展政策」を発表し、鉄鋼の需要が大きく拡大したことで中国の生産量が世界一となったが技術力は不足していることを指摘している。今後は、鉄鋼業の発展の重点は技術力のレベルアップと構造調整の推進、また産業配置を改善し循環経済を発展させることでエネルギー消費を引き下げることが必要としている。中国の鉄鋼生産は採算性の悪い中小の鉄鋼企業が7割を占めている。政府は集約化を促進しているが充分な効果がでているとはいえない。量的供給能力は世界一になったものの、技術力が必要とされる高級鋼材は輸入に依存しているという構造になっている。原材料の高騰により鉄鋼価格は上昇しているが、アセアン諸国による銑鉄・鋼塊・半製品の汎用品の需要が減少したとき輸出が行き詰まり生産過剰な状態が深刻化し、世界の鉄鋼価格にも影響を与えることが世界から懸念されている。

国家発展改革委員会の馬凱主任は、鉄鋼の生産能力は2005年の国内需要の3.7億トンを1.2億トンも上回っていることを指摘している。しかし7,000万トンの生産能力のある工場を建設中、さらに8,000万トンの能力のある工場の建設も計画中であり、生産の抑制がされていない。

生産量が世界の3分の1を占める鉄鋼産業以外にも国有企業による独占的な体制から外資企業や民間企業が参入している段階である産業において、生産の抑制ができない傾向がみられる[2]。鉄鋼産業においては国有企業のシェアは低下しているがやっと5割を下まった程度である。

多くの鉄鋼企業は、7割が地方に存在しており、実質的な経営者の任免権や操業停止権、利潤収入の使い道などは地方政府に帰属している。そのため、中央政府が安定性のある経済成長を維持するために生産を抑制する政策を掲げても、財政難に陥っている地方政府にインセンティブがない限りは非常に実効性が低いことが伺える。

本論文では、多くの企業が地方に存在している鉄鋼企業の中央と地方の企業の格差の現状と問題点を分析し、さらに政策を掲げても生産を抑制できない背景と原因を検討し若干の示唆をする。

1. 内需の拡大と構造調整

中国の鉄鋼の生産量は1998年から2005年にかけて4倍以上に増加した。2002年の粗鋼生産量は1億8,225万トンだが、2003年には2億2,2234万トンになり、2005年には3億5,579万トン、2006年には4億1,878万トンと順調に生産量が拡大した。その影響で世界の鉄鋼生産量が押し上げられ、1990年代は年産で約7億トンで推移していたものが2004年には10億3,500万トンに急増した。2006年の粗鋼生産量は前年比で18.5%増加、世界の生産量の33.8%を占めるようになった。2006年の中国の粗鋼換算ベースの国内見掛消費量(内需)は3億8405万トンで世界の消費量の31%を占めるようになった。中国の一人当たりの粗鋼消費量は263.7(Kg/人/年)で日本の消費量647.7の4割に過ぎない。2006年の特徴はプロダクツミックスの調整が発展し、製造の構造調整も大幅に進展したことである。鋼材生産は前年比24.5%増の4億6685万トンだが、そのうち鋼材類(狭幅帯鋼除く)は同36.5%増の1億5402.5万トンとなり伸び率は鋼材全体を12.1ポイント上回った。冷延薄板は同53.1%増の1,314.6万トン、めっき鋼板は同43.6%増の1,398.5万トン、電磁銅板は同26.4%増の329.5万トンとなった。特殊用途向け鋼材の生産量もコンテナ用鋼板は同65%増の217.5万トン、橋梁用鋼板は同60.5%増の73.2万トン、造船用鋼板は同34.8%増の654万トン、圧力容器用鋼板は同27.3%増の129.3万トンとなった。ステンレス鋼生産は同67.7%増の529.9万トン、特殊鋼は同10.5%増の1300万トンであった。内訳においては徐々に効率のよい製造構造に移行している[3]

2. 世界最大の輸出国へ

2-1.鋼材の輸出入の推移

中国の鋼材の輸入は、1990年代から1000万トンを超え2002年には2500万トン近くにまで規模が拡大している。鋼材輸入が増えると板管比率(輸出入に占める鋼板や鋼管の比率)は約5割まで低下し、逆に鋼材輸入が減少すると板管比率は8割以上に増えている。これは、中国の鋼材生産は板管比率が低いためである。鋼板や鋼管など国内で生産が難しい製品は国内の需要や供給の影響を受けにくいが、鋼材の輸入は影響を受けやすいためである。1990年以降は鋼材の輸入が増え板管比率も2000年は1994年の2倍に増えている。中国の鋼材輸出は1989年に100万トンを突破,1995年には前年の4.75倍に急増し1019万トンになり2003年の696万トンになった。輸入は1986年に2018万6000トンから1990年には400万トン弱にまで減少したが、1993年には3626万トンへと増加し、その後やや減少したが、1996年には1452万5000トンとなった。

2-2.近年の鋼材の輸出入の状況と鋼材の種類

中国は高付加価値鋼材を輸入し製造容易な長物を輸出している。2004年における鋼材の輸出入バランスは、輸出が2,600万トンであるのに対し輸入は3,600万トンで約1,000万トンもの輸入超過となっている[4]。その背景には2001年のWTO加盟により鉄鋼の輸入関税が引き下げられたことで輸入が促進されたこと、中国の経済成長にともない自動車など耐久消費材生産が拡大したことから鋼板や鋼管への需要が増加したことがあげられる。ところが2006年からは純輸入国から純輸出国に転じ、欧米諸国との貿易摩擦が懸念されるようになった。しかし、経済協力開発機構(OECD)は中国の鉄鋼輸出に関して「高付加価値製品では依然として輸入国の立場のままだ」と指摘している。

中国の鉄鋼企業は非効率な小型高炉が大半を占めているため、条鋼類や熱延薄板類などの高級鋼材は輸入に依存している構造となっている。中国で生産され鋼材は製造が容易な条鋼、形鋼、線材などの「長物」の比率が58%を占めている。板類や鋼管などの鋼材の輸入の6割は日本、台湾、韓国からの輸入に依存している。

2006年の輸出は、鋼材が前年比109.58%増の4,300.7万トン、半製品は同27.8%増の903.6万トンだが、輸入は鋼材が28.3%減の1,851万トン、半製品が同71.8%減の37万トンである。鋼材、半製品の輸出入を粗鋼換算した純輸出量は3,472.6万トンで、粗鋼生産量の8.3%を占める結果になった。世界の粗鋼生産の伸びは前年比4.4%であるが、需要の伸びが前年比6.6%で追いつけず、その2%を中国が補った結果となった。品種別にみると、1995年の段階においては輸出では鋼材以外に銑鉄が543万3000トン輸出され、鋼材では鋼塊・半製品が458万7000トンと全体の45.0%を占めていた。圧延能力が絶対的に不足しているという理由だけではなく、銑鉄・鋼塊・半製品段階においての価格競争力があるため半製品の1000万トン以上の輸出の需要があった。次に多い熱延鋼帯と厚中板・熱延薄板(大部分は厚中板)では、特に薄板類の中では加工度の低い量産品である熱延鋼帯がASEAN諸国を中心に総合的に競争力がある[5]。一方、輸入は条鋼・形鋼類が全体の36.7%を占め、次いで冷延鋼板類17.9%,熱延鋼帯13.3%であった。圧延部門設備稼働率は62%で汎用鋼材の圧延能力は絶対的には不足しておらず、むしろ形鋼などの需要と供給の不均等が問題になっている。2006年では鋼板類は2,037.1万トンで全鋼材の輸出に占める割合は前年比+6.2ポイントの47.7%である。条鋼類は1,375万トンで、全鋼材の輸出に占める割合は前年比-2ポイントで32%である。鋼管類は640.6万トンで全鋼材の輸出に占める割合は前年比-2.2ポイントの14.9%となった。冷延鋼板類、めっき鋼板、カラー鋼板、電磁鋼板、ステンレス鋼、合金鋼など高付加価値6品種の輸出量は前年比4.2倍の624.7万トン(同+4.9ポイントの14.5%)と輸出のプロダクトミックスも高付加価値鋼材に移行し発展していることがわかる[6]。また、一定の品質が向上したことで生産量だけでなく品質の面においても、世界市場、特にアセアン諸国を対象に輸出競争力が高まった結果となった。もっとも国際市況と中国国内の市況の差が中国の鉄鋼産業が世界の鉄鋼産業の中で、中国の鉄鋼輸出において有利に作用したといえる。

2-3.輸出増値税還付率の見直し

中国政府も輸出抑制の対策を打ち出している。貿易摩擦のために増値税の見直しをし、これまでのような利益は出しにくくなることが予想された[7]。2007年4月に厚板など一部鋼材について実質減税措置だった輸出増値税還付を撤廃したのに続き、5月に輸出許可制度を導入、6月には5-10%の輸出関税付加、7月には表1のとおりパイプなどでも輸出増値税還付を撤廃し、鉄鋼(型鋼、鋼板類除外)においては11%から2006年には8%に還付率が減少している。

表1 輸出増値税還付率の見直し

品目

還付率の変化

還付率の引き下げ

鉄鋼(型鋼、鋼板類除外)

11%

8%

セラミック、一部皮製品、セメント、ガラス

13%

8~11%

一部の非鉄金属材料

13%

5~11%

紡績品、家具、プラスチック、ライター

13%

11%

材木製品

還付の廃止

塩、非金属鉱産品、石炭、天然ガス、

-

パラフィン、シリコン、砒素、石材、

非鉄金属及び廃材、25種類の農薬及び中間財など

還付率の引き上げ

推奨対象となるハイテク製品(例:液晶TV等)

13%

17%

バイオ医薬品

IT製品

13%

17%

農産物の加工物

5~11%

13%

出所)財政部資料を参考に筆者作成

2-4.主な輸出入先

中国の輸出鋼材は建設向けなどの汎用品が中心であるが、輸出先で、月間100万トンを超えているのは韓国、アセアン諸国、EU向けであり、特に韓国は50%以上、EU向けはその倍以上と2007年より急増している。

2003年から2004年にかけて輸出先のアセアン諸国向けは3倍以上に増加している。2007年においては7倍以上に増えている。

中小の鉄鋼企業においては、中・小型の生産体制では、<高炉-平炉-造塊モールド・分塊圧延機-条鋼・形鋼を中心とする圧延機>という工程をとっている場合が多く、大量生産システムの確立、大量消費との連動は条鋼・形鋼類の生産も一貫企業が担っているが効率的ではない。世界的に高級鋼材が不足している中で、外国製の安値の汎用鋼材との競合が強まっており、アセアン諸国では一貫して生産ができていない企業が多く中国からの輸入に依存している。

中国の仕向国別鉄鋼輸出(仕向国別輸出内訳)(単位:1000トン)

東アジア

日本

韓国

台湾

ASEAN5

タイ

シンガポール

マレーシア

フィリピン

インドネシア

ベトナム

2003年

5,828

257

1,756

618

1,150

267

233

215

179

257

340

2004年

14,555

699

4,312

2,439

3,931

1,453

637

521

396

924

1,108

2005年

20,348

970

6,584

2,499

5,723

2,289

771

756

642

1,264

1,758

2006年

29,675

649

10,182

3,428

7,181

2,281

1,536

796

1,115

1,453

3,287

2007年

35,420

799

12,911

2,599

8,332

2,082

2,117

1,053

1,417

1,663

4,324

中東

EU27

北米

米国

大洋州

その他

合計

2003年

169

476

722

576

91

301

7,587

2004年

383

1,197

2,316

1,840

125

674

19,250

2005年

633

1,313

2,757

2,193

412

960

26,423

2006年

2,969

7,360

6,110

5,130

475

3,802

50,390

2007年

8,725

10,885

4,735

3,807

648

6,507

66,921

出所)日本鉄鋼連盟、2008年8月25日時点をもとに筆者作成

しかし、輸入先をみると、4分の1が日本からの鉄鋼に依存している。日本鉄鋼連盟によると2007年の日本の輸出先国別では、中国向けは2位で652.4万トンで、2006年度比較で1.9%増で2年連続増となった。1位は韓国で1,014万トン、2006年度に比較して13.7%増加し2年連続増している。3位はタイで439.5万トン、同13.3%増で3年ぶりの増加、4位は台湾で371.3万トンで、2006年度比較で3.0%増、3年連続増となった。一方、米国向けは161.8万トンで前年比17.7%減でと4年振りの減少となっている。輸出の内訳は、普通鋼鋼材が2,637.2万トンで、2006年度に比べて6.8%増加、特殊鋼鋼材は593.6万トン、2006年度に比較して5.8%増、半製品は502.7万トンで、2006年度の9.8%増、二次製品が71.5万トンで、2006年度比で11.5%増と、いずれも前年度に比べて増加している。特に特殊鋼鋼材においては過去最高だった2006年度の561.1万トンを抜いて史上最高となっている。2007年度の鉄鋼輸出船積実績は、数量が3,844.8万トンで、前年度比7.1%増で、史上最高となった。金額でも386億3,867万ドルで過去最高の2006度の332億5,675万ドルを16.2%上回り、5年連続で史上最高を更新した。中国の鉄鋼生産が成長することで日本からの輸出も増加している構造になっている。中国からの輸入先は1位が日本、2位が韓国、3位が台湾となっており、日本からの輸入は2003年から1位となっている。

中国の仕向国別鉄鋼輸入(仕向国別輸出内訳)(単位:1000トン)

東アジア

日本

韓国

台湾

中東

EU15

ドイツ

EU27

2003年

23,030

7,589

5,250

6,077

317

2,658

847

3,737

2004年

20,476

8,106

4,995

4,911

249

2,263

938

2,929

2005年

18,629

6,421

4,489

4,925

149

1,783

628

2,041

2006年

15,918

6,781

3,879

3,956

29

1,373

613

1,398

2007年

14,988

6,868

3,639

3,503

1

1,267

524

1,278

その他欧州

北米

中南米

その他

合計

トルコ

ロシア

ウクライナ

米国

ブラジル

2003年

10,852

733

4,975

3,523

967

874

3,117

2,090

1,059

43,077

2004年

6,513

458

2,852

1,998

263

189

1,905

1,278

762

33,097

2005年

4,423

176

2,616

667

277

217

1,072

777

587

27,177

2006年

959

16

509

27

135

111

299

236

236

18,973

2007年

545

20

182

*

162

145

109

73

115

17,198

出所)日本鉄鋼連盟、2008年8月25日時点をもとに筆者作成

3.過剰な生産に対する政策と現状

中国における過剰な生産による生産量をコントロールできないのは鉄鋼産業だけではなく、電解アルミ産業・鉄合金産業・コークス産業・カーバイド産業・自動車産業などでもみられる。電解アルミの生産能力は1,030万トンだが、その4分の1にあたる260万トン以上が余っている状態である。コークスではすでに生産能力が需要を1億トン上回っているというのに、現在建設中または建設予定の工場の生産能力は3,000万トンにのぼる。自動車業界では200万台以上も余剰である状態なのに、現在、建設中の工場の生産能力が220万台であり、建設検討中の工場の生産能力を加えると余剰台数は1,220万台にのぼる。これらの産業のように国有企業による独占状態から外資企業や民間企業が参入している段階である産業において生産過剰の傾向がみられる[8]。鉄鋼産業においても民間企業の参入により、鉄鋼市場に占める国有企業のシェアは低下し57%程度に落ち込んでいる[9]。民間企業の参入の増加にともない国有企業の割合が減少している中で、これまで構築されたシステムと新しい構造との間に生まれたギャップに対応できないのが現状である。

中国鉄鋼工業協会は、「中国の鉄鋼産業は新しい工業化を目指し持続的かつ健全な発展を押し進め、現在は4回目の転換期に直面している。小康社会(いくらかゆとりのある社会)を建設するという目標の提起が中国鉄鋼産業にもチャンスをもたらしている」という。しかし同時に、「これからは国の経済発展情況だけでなく、鉄鋼産業自身が持続可能な発展を実現できるか否かという問題点が浮き彫りになっている」[10]と、している。

政府は鉄鋼産業を優先産業と指定し、交付金、優遇貸付金、税制上の優遇措置などを提供してきた。改革開放以降、鉄鋼産業は直接的な政府の助成や政策により拡大してきた。しかし、生産量が世界一の規模に拡大した現在の鉄鋼産業において、中国政府は生産過剰な産業を抑制するためのさまざまな政策をとっている。

2005年7月に国家発展改革委員会名で発布された「鉄鋼産業発展政策」では発展方向を示すだけでなく、この政策に反したプロジェクトに対しては「国土資源部門は土地使用許可の手続きを実行しない、工商管理部門は企業の登記を受け付けない、商務管理部門は契約や約款を承認しない、金融機関は融資しない、税関は設備の輸入手続きを実施しない、品質検査部門は生産許可証を交付させない、環境保護部門は環境アセスメント評価を批准しない」(第24条)と徹底している。新規の設備投資は、高炉1,000立米以上、転炉は120t以上、電炉は70t以上、沿岸部においては高炉3,000立米以上、転炉は200トン以上、年間粗鋼生産能力は800万トン以上(第12条)と定められ大型に限定された。また既存の300立米以下の高炉、20トン以下の転炉と電炉などの小型設備においては廃棄が義務付けられた(第17条)。また、年間粗鋼生産量500万トンの企業が他省や海外に製鉄所を建設することは禁止され、設備投資の際には40%以上の自己資金を求めている(第23条)。2000年に第一次、第二次小型製鉄所閉鎖命令、同年、第二次陳腐化生産能力・技術・製品倒汰命令(100立米以下の高炉や15トン以下の転炉、10トン以下の電炉など)が発せられたが、今回はそれ以上の強化により既存設備と新規設備において規制を促したことになる[11]

2006年3月には国務院が「生産能力過剰産業の構造調整加速に関する通知」を公布した。鉄鋼・自動車・電解アルミなどの生産能力過剰な業界において構造調整を促進するために重点措置を示した。

中国国家発展改革委員会が2005年7月20日に発表した「鉄鋼産業発展政策」の内容は、政策目標と産業発展計画、産業配置調整、産業技術政策、企業の組織構造調整、投資管理、原材料政策、鋼材の節約、その他に分かれている。第6章の投資管理の第23条には、明確に外資企業が中国に投資する場合外資企業は50%以上の資本を持つことは許さないとして、中国が鉄鋼産業を完全に開放することを避けていることがわかる[12]

「鉄鋼産業発展政策」の第1章の政策目標の第3条においては、2010年までに上位10社のシェアを50%以上にし、2020年までに70%以上に向上させるとしている。1,000万トンを超える生産量は2004年には上海宝鋼集団、鞍本鋼鉄集団[13]の2社だったが、2005年には唐山鋼鉄集団、武漢鋼鉄集団、江蘇沙鋼集団、首鋼集団、済南鋼鉄集団、菜蕪鋼鉄集団になった。2002年には3,000m3以上の大型高炉が3基だったのが2006年には9基になり、2,000から2,999m3の大型高炉は17基から37基と増加した。大型高炉の生産能力は2002年の4,079万トンから2006年の1億585万トンと2.6倍に増えている。広幅帯鋼連続圧延機は熱間圧延機が17基から35基に増加し、年産能力は2002年の3,845万トンから2006年には2.8倍の9,139万トンへ拡大した。冷間圧延機においては8基から24基に増え年産能力は1,106万トンから2.8倍の3,130万トンに拡大した。2006年のステンレス生産能力は2002年に比較すると3.5倍の1,000万トンに、熱延能力は800万トン、その他にも亜鉛めっきは同6.6倍、カラー鋼板は同3.7倍、厚中板は同3.6倍となっている。

政府の政策にもかかわらず中国の鉄鋼生産量が抑制できないのは中国の鉄鋼産業の構造問題にある。2004年の世界のベスト10にランクインしたのは1社、上海宝鋼集団のみである。上海宝鋼集団、鞍山鋼鉄集団(現在は鞍本鋼鉄)だけが1000万トンを超える生産量を誇っていた。2005年には25社の鉄鋼企業が1000万トンを超えたが、それらの中国企業は全生産量の40%未満しか占めていない。小規模の鉄鋼企業が多くが東北部に集中している。年間500万トン以下の生産量である企業も雲南、吉林、重慶、黒竜江、貴州、青海、海南、寧夏など多く存在している。そのため国際鉄鋼協会の事務総長であるイアン・クリスマスは「中国の各地域は独自の鉄鋼業を保有することを望んでいる」と述べている[14]。また国有企業の生産量は57%を占めている。株式は、国家・地方・地域のレベルにおいて政府が所有しており、それによって既得権と同様に各鉄鋼企業に指示する機能も与えられることになる。

中国の鉄鋼企業は「鉄鋼産業発展政策」の第3章によって地区ごとに統合されることになった。東北地区の中国第2の鉄鋼企業である鞍山鋼鉄と第12位の本渓鋼鉄が合併し「鞍本鋼鉄」が誕生した。この結果、粗鋼2,000万トンを生産する規模になり上海宝山鉄鋼に匹敵するようになった。華北地区では首鋼総公司と唐山鋼鉄が共同出資し「首鋼京唐鋼鉄」が設立された。河北省では宣化鋼鉄、承徳鋼鉄のすべての資産を唐山鋼鉄に組み入れ「唐鋼集団」が設立された。しかしながら内陸型で設備の古い製鉄所しか保有しない鉄鋼企業同士が合併しても、プラスの効果は少ない。

4. 中国の鉄鋼産業における中小企業の現状

4-1. 集約化ができない中小企業

中国の鉄鋼企業は生産量拡大とともに世界におけるランクも上昇した。集約化により上位20社の生産量が世界生産に占める比率は、1996年の31.3%に対し2005年には37.2%に上昇した。2005年のトップは「ミタル・スチール(オランダ)で2位は「アルセロール」(ルクセンブルグ)である。「JFEスチール」が世界ランキング4位に、トップだった新日本製鉄が3位に落ちた。中国では「宝山鋼鉄集団」が6位になった。2005年8月には鞍山鋼鉄が遼寧省の本渓鋼鉄と統合され鞍本鋼鉄集団となった。粗鋼生産量第2位の鞍鋼(鞍山鋼鉄集団)と第5位の本鋼(本渓鋼鉄集団)は正式に経営統合し、粗鋼生産能力2000万トン、総売上高1000億元の巨大な企業となった。鞍本鋼鉄集団は、2010年までに粗鋼生産量3000万トン、世界のベスト500企業へのランク入りを目指している。2006年8月には粗鋼生産量第6位と第7位の済南鋼鉄集団と莱芜鋼鉄集団が経営統合に向けて原則的に合意したことを発表した。その他、宝鋼の上海地区の鉄鋼企業の吸収、邯郸鋼鉄と舞陽鋼鉄の合併、攀鋼と成都シームレスパイプの合併、重慶鋼鉄と重慶特殊鋼の合併、東北の特殊鋼メーカー3社(大連、撫順、北満)の経営統合による東北特殊鋼集団の誕生等が挙げられる。

生産体制を維持し規模の拡張を進めながら高級鋼材に移行した企業と中小型の設備によって汎用鋼材だけの生産を拡大した企業にわけられる。高級鋼材に移行し吸収合併を繰り返して拡大した中国最大の鉄鋼企業、宝山鋼鉄集団を訪問した。1985年に4,065立米の1号高炉、3000t大型転炉3基などが第一期工程で完成し、1991年に2号高炉、熱延広幅帯銅ライン、2,030mm冷延広幅帯銅ラインなどが第二期工程として完成した。第一期工程では設備の大半を日本から輸入し、ドイツからは継目無銅管ラインを輸入、第二期工程の設備ではそれを基に2号高炉やコークス炉、焼結機などが中国で生産されたが、圧延ラインは日本とドイツと中国の共同で設計された。1993年から2000年の第三期工程では4,350立米の3号高炉、250t大型転炉2基と150t大型電炉1基など高級鋼板を中心とした設備投資で16%が海外との共同設計であった。2005年には中国最大の生産量2,273万トンを誇るようになった。

それでも中国の鉄鋼産業の国際競争力は低いため「冶金工業第10次5ヵ年企画」では、東北、華北、華東、中南、西部の地区に分け、鞍鋼、首鋼、宝鋼、武鋼、攀鋼を中心とした5社を世界に通用する規模に再編する方針を打ち出した。中国の冶金工業部が1950年代に打ち出した立地分布による「三大、五中、十八小」鉄鋼発展戦略においては、三大(鞍鋼、武鋼、包鋼)、五中(5省においての中規模の鉄鋼企業)、十八小(他の十八の省に小規模の鉄鋼企業)にわけて輸送コストや地域ブロック供給体制の歴史的経緯を考慮しながらの再編戦略を掲げている。WTO加盟後、競争力が求められるようになり「二つの市場、二種の資源」(国内外の市場と資源)の戦略を掲げ、世界規模として生き残る企業をつくること、過剰供給能力を削減することを目指している。

2007年1月「宝山鋼鉄集団」は新疆ウイグル自治区にある「八一鋼鉄集団」の69.9%の資本を傘下に収めた。アルセロール・メタルが八一鋼鉄の買収をすすめようとしていたからである。中国政府が基幹産業を防衛するため「宝山鋼鉄集団」に買収させた。八一鋼鉄集団は、生産規模は宝山鋼鉄集団の10分の1で小規模だが、鉄鋼生産の原材料となる鉄鉱石や炭鉱などの資源を保有している。アルセロール・メタルは昨年末に合弁により誕生した企業だが、旧メタルが八一鋼鉄だけでなく昆明鋼鉄にも注目したため、中国政府は率先して昆明鉄鋼と国内の鉄鋼企業、鉄鋼集団との提携を推進している。

しかしながら中国の鉄鋼企業は産業の集中状況を示す上位4社集中度は、1999年に31%だったのが2004年には18.52%まで低下している。これは、世界各国の産業の寡占化とは逆の動きである。

日本は大手5大鉄鋼企業が市場の90%を占めているのに対し、中国では生産量500万トンを越える大手鉄鋼企業の13社は市場の45%しかしめていない。中国の場合は、いかに中小規模企業が多いことがわかる。

2007年5月、鉄鋼に関する市場調査などを行っているワールド・スチール・ダイナミクスが発表した、世界の鉄鋼企業の競争力ランキングでは第1位はセベルスタリ、第2位はポスコ、第3位はアルセロール・ミタルだった。中国では宝鋼集団が2006年から順位を1つ落として第4位、鞍本鋼鉄が第12位、武漢鋼鉄が第20位、馬鋼集団が第22位、沙鋼集団が第23位となっている。生産量の増加とともに再編は進んでいるものの宝鋼集団のランキングは落ちている。産業集中度においては上位10社のシェアは1993年の47%から2005年の37%へ低下し、上位30社でみても1993年の72%から2005年の63%に低下している。十大製鉄所とされていた首都、鞍山、本渓、武漢、包頭、太原、馬鞍山、宝山、唐山、琴枝花のシェアでさえも1993年には 47%だったものが2005年には32%に低下している。鉄鋼企業の多くは国営企業であり採算性の悪いシステムと経営方針をひきずっている。特に中規模の鉄鋼企業は旧式の設備で効率の悪い生産のままである。地方の採算性の悪い企業どうしが合併しても必ずしも競争力がアップするともいいきれない。再編が進み政策の効果があるようにみえるが、その生産性においては改善されているとはいえない。

中国鋼鉄工業協会(CISA)では、2006年の鋼材需要は華東地区が全体の41%を占めており、華北地区が20%、中南地区が18%、西南・西北地区は合わせて13%占めているとしている。分野別鋼材需要でみると、建設が最大で51%を占めている。建設関連需要と合わせると建設関連で60%以上を占める。地域経済や雇用などへの悪影響を考慮しながら、環境規制に適合した大型設備を新設を予定しているが、一方で旧式の中小企業は買収されずに存続している。

4-2. 期限内に改革できない政策

生産量の少ない地方に存在する小規模企業における再編は、定められた期限に対して、遅れている。2006月3月の「生産能力過剰産業の構造調整加速に関する通知」を受けて、年産1億トン分の鉄鋼生産を抑制するため300m3以下の旧式の生産設備を2年間で淘汰していく計画を立てた。ところが河北省と山西省には300m3規模の鉄鋼メーカーが248社ありその数は全国の68.7%を占めている。これらの企業がいっせいに淘汰されれば河北省と山西省の経済打撃は大きい。発表後の6ヶ月後にはすぐにこの政策への改革の期限が延期され、老朽化した高炉の廃棄する期限を2007年から2010年までに先送りすることに変更した。

4-3.中央政府と地方政府の構造問題

国家発展改革委員会(発改委)経済運行局の賈銀松・副局長は2007年4月に開催されたシンポジウムで「中国鉄鋼業界の投資過熱はコントロールされ、業界再編も少しずつ段階的に進められているが、依然多くの問題が存在する」と発言し、以下の点を指摘し措置を講じていくとしている。

-市場需要予測が大きく見込みすぎである。生産能力拡充圧力が依然存在している。特に建設中の設備の規模は大きく、将来、生産能力の過剰となり問題になるだろう

-国内外市場の需要が旺盛であるが、小規模で古い立ち遅れた設備の閉鎖は難しい。

-新規建設への規制があるのにもかかわらず新たな小規模設備が建設されている。

-輸出の構造が不適切であり反ダンピング圧力がさらに強まる懸念がある。

-鉄鉱石の輸入への依存度が増し、その割合はすでに50%を越えた。

-国内の鉄鋼企業の再編ペースが遅く、体制改革は遅れている。

1.エネルギー・水資源の消費基準、排出基準などの見直し

2.生産能力拡充ペースの抑制

3.水資源、電力価格の差別化

4.輸出構造の調整

5.立ち遅れた生産設備の閉鎖ペース加速

6.技術開発の推進

7.企業合併・再編の奨励

8.立ち遅れた設備の閉鎖にともなう補償体制の整備

9.廃棄物の削減、再利用

地方では改革による地方政府の経済的権限の拡大と経済発展を重視した行政人員の人事考課を背

景に予算内の財源が増加し、予算外資金や制度外の資金も増加した。しかし、権限が拡大したことで地元企業と地方政府の密接な関係が強化され、収賄関係も深くなった。1994年の「分税制改革」では、中央と省ごとに税収の留保率を決定すること、省レベル政府から中央への財政移転、負の垂直的財政力格差による「財政請負制」からの転換を目指した。政府と地方では統一された税源配分となっているため、増値税は、中央と地方では75%対25%となっている。この目的は税収によるGDP比率と、中央シェアの引き上げであったため1993年では22%の中央シェアの財政収入は2003年には54.6%になった。地方の支出責任が中央からの財政移転を充分に充足することができない、中国の財政移転制度は平準化機能を有していないため財政移転が地域間の財政力格差を是正することができない。財政移転たる「税還付」は財政移転の地域間配分を拡大し、地域間格差(水平的財政力格差)は一人あたり財政支出の格差となって特に東部とその他の地域との間の格差を激化した。

4-4. 市場経済ではない中国経済

中国は一般の市場経済国家で通用しているような市場経済ではなく、政府が監督し各産業まで管理しようとする方法を強化している。WTO加盟後、市場経済を支えるための法律の整備の遅れなどにより、日本、米国、EUなど先進国と貿易する際、「市場経済国」として認められていない。中国が法の整備を通じて「市場経済国」の地位を獲得することで、中国企業だけでなく直接投資や委託加工などでの多くの多国籍企業もその影響を受けることになる。また、これらの法律の実施により、所有権への保護が強化され、公平な競争が行われるようになれば、外国企業にとって投資環境も一層改善されることになる。現在、中国は自国の資源獲得や技術力不足を補うため海外に積極的に進出し合併や買収を繰り広げているが、中国国内への進出に対しては規制がある。前述したように第6章投資環境第23条では、「外資による我国鉄鋼業への投資は原則として外資側がマジョリティを持つことを許さない」とあり、そのほかにも①前年度における特定の生産レベル、②40%以上の資金自己調達、③近代的なテクノロジーと管理、④発達した供給、⑤物流網などにおいても投資要件を定めている。昨年の生産量は中国企業においては一般鋼で500万トン、特殊鋼で50万トンを満たせばいいが、外資系企業に対してはその倍の数字が定められている。このように政府の打ち出す政策によって企業の業績が左右されるということも完全な市場経済とはいえない。

4-5.国有企業の構造問題

中国経済の市場経済化には、業績が悪化している国有企業の組織構造にも問題がある。中国の経済体制を改革するためには国有企業の改革は不可欠である。1978年からの改革・開放政策により中国経済は成長してきたが、外資系企業の参入により国有企業の非効率化が問題視され国有企業の倒産件数は増加の一途をたどっている。19第15回中国共産党大会で、公有制の定義をこれまでの「国有+集団所有」から「国有+集団所有+混合所有の国有・集団部分」とした。国有企業の株式制本格導入を打ち出し、国有単独独資公司、株式有限会社、有限責任会社に転換、中小国有企業は株式合作制に転換したが、その効果はでなかった。

これまで鉄鋼産業は1980年代までに政府の保護政策によって全産業の代表としてトップの地位を誇るほどに発展し、1990年代からは従来の鉄鋼産業を中心とする経済建設方針から構造改革の課題に直面した。いまだに国有企業として独占的な位置にあり、問題がおきても国家の産業政策の下で遂行された。2001年には国家経済貿易委員会は「第10回国民経済および社会発展5ヵ年計画期間の工業構造調整法案」を発表し、「構造改革は製品の高度化だけでなく企業と政府の関係、資源配置転換、企業集団競争力の向上、そして企業制度の改革も視野に入れる」という基本方針を掲げ産業政策の重要性を強調している。また、2005年7月に発表した「鉄鋼業の発展政策」の第5章の企業の組織構造調整では、人的な再配置においても政策的支援をすることを掲げている。

おわりに

中国の鉄鋼産業は、国内外の経済成長にともなう鋼材価格の高騰と鋼材の需要により生産量は世界一にまで拡大した。しかし、生産過剰な状態により汎用鋼材の供給が飽和状態になり、政府は政策によって抑制しようとしているが効果が上がっていない。国内の汎用鋼材の需要が増加しているため現在は中小企業への需要はあるが、同時にそれ以上に過剰な設備投資が増加してることから将来はさらなる余剰状態になることが懸念されている。鉄鋼の過剰な生産を抑制できなければ、それに付随する他の産業においても影響が及ぶことが懸念され、安定した経済成長からかけ離れることになる。政府の意向である中小企業の再編や集約化は促進できていない。

その背景には中央政府と地方政府の構造問題、地方と中央の格差問題があると同時に構築システムにも問題がある。旧式の設備を持つ中小の鉄鋼企業が集約化されないということは環境問題にも悪影響を及ぼしている。また、最新の効率のよい設備を持たない中小の鉄鋼企業を買収したいという企業もあらわれない。中小の鉄鋼企業同士が表向き合併や再編をしても、それらが効率のよい企業に生まれ変わることは非常に難しい。世界において、生産ランキングのトップを占めている中国の大手鉄鋼企業が技術力の更新、生産量の拡大、時価総額の規模の拡大を促進している反面、中小の鉄鋼企業においては、集約化が遅れ改善が進んでいないのが現状である。

中小の鉄鋼企業の7割が地方に存在している。中央政府が生産を抑制する政策を掲げても財政難に陥っている地方政府において効率の悪い中小の鉄鋼企業を淘汰することは不可能に近い。倒産させれば地方経済に大きな打撃を与えることになる。地方の業績の悪い企業の負債は最終保証者である地方政府に重荷となり、悪循環が繰り返されることになる。これが必然的に実効性が低くなる大きな原因である。

政策を本格的に実行するためには分離化された地方財政の解決が必要といえる。中国経済は先進諸国に比較すると市場経済が完全ではなくまだ未熟な状態である。完全に民営化し市場経済が浸透すれば市場メカニズムが働くことで生産量は抑制されるが、市場経済が緩やかに発展している段階において地方政府が中央政府に完全に管理されるといった中央政策の威令が及ぶわけではない。国有企業の経営メカニズムを改善し市場経済を早急に促進し、法律の整備と充実を図ることが必要である。

1International Iron and Steel Institute, Steel Statistical Yearbook 20042004)による。

2 関志雄(2005)の『中国経済革命最終章』日本経済新聞社と、関志雄(2006)の「生産能力の過剰がなぜ発生するか」『中国経済新論』6月28日号において国有企業の独占体制から外資企業や民間企業の参入段階である産業において、生産の抑制ができない傾向がみられるとしている。

3中国鋼鉄工業協会,2007「第3回会員代表大会における謝企華会長の活動報告」において発表された。

4 日本政策投資銀行,2006「鉄鋼業の中国展開における現状と課題」において末武良久が記述している。

52007年8月9日、上海の阪和興業株式会社訪問しヒアリングを著者がまとめた。

6中国鋼鉄工業協会、前掲報告

7阪和興業株式会社、前掲取材報告

8関志雄、前掲報告

9周其仁、「産能過剰的原因」『経済観察報』2005年12月10日号、2006年1月16日号、関志雄、前掲報告において記述してる。

10中国機械工業最新情報、「4回目の転換期が到来」『鉄鋼業発展』2004年9月27日

11中屋信彦、2007『鉄鋼業の拡大と発展』今井健一・丁可編『中国高度化の潮流-産業と企業の変革』、調査研究報告書、アジア経済研究所

12 鞍山鋼鉄集団(遼寧省鞍山市)と本渓鋼鉄集団(同省本渓市)が経営統合し鞍本鋼鉄集団になった。

参考文献・資料

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左近司忠政、2006「世界鉄鋼業の再編と今後の展望」『金属』No.9,p69

佐々木信彰、2007『現代中国産業経済論』世界思想社

上海宝銅史誌編集委員会、ウエブサイト2005:225-229

末武良久、日本政策投資銀行、2006「鉄鋼業の中国展開における現状と課題」No.095

中国財政雑誌社編輯、2004『中国財政年鑑2004』中国財政雑誌社

中屋信彦、2007『鉄鋼業の拡大と発展』今井健一・丁可編『中国高度化の潮流-産業と企業の変革』、調査研究報告書、アジア経済研究所

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舛田桂弘、2007「改革期中国に見る多様な所有制の可能性」『経済社会学会年報2007』

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