百楽9月号(9月1日発行) 柏木理佳の熟年世代・資産運用セミナー連載第6回

2010年09月01日

百楽9月号
柏木理佳の熟年世代・資産運用セミナー連載第6回

 

日本国債はまだ安全か?
国債論議で見えてくる日本のカタチ
 
日本の株式市場が低迷している中、安定した利回りと安全性から、日本国債が注目されつつあります。でもその半面、日本の財政もギリシャのように破綻寸前ではないかという不安の声も耳にします。日本の2009 年度の国債発行額は過去最高になりました。10年度は09年度以下に抑えるとの目標を掲げているものの、一般会計総額は約92兆円という厳しい財政難に陥っています。日本経済が本格的に回復しない中、国債に依存せざるを得ない現状もあります。では、そんな国債を取り巻く状況について私たちはどう考え、資産運用したらいいのでしょうか。今回は、経済評論家の三原淳雄氏にお話をうかがいました。
 
国債は、日本経済を支える最大の切り札載
第6――不況で税収が減少し、一方では景気対策の支出がふくらみ、国の借金は約890 兆円(2010年3月末)で過去最大を更新しました。こんなに借金を背負って、日本は大丈夫なのですか?
三原 たしかに国債を買うというのは、この膨大な借金の肩代わりではないかという印象があります。しかし、「国債を買うのは不安」などと怖がってばかりでは問題の解決になりません。「なぜ日本経済の先行きが不安なのか?」「なぜ企業は利益を出せなくなったのか」を考えてほしいのです。日本国民には〝覚悟〟が欠けています。
――といいますと?
三原 いまの日本は、政府が企業に替わって経済を活性化させ回なければならない状況にあります。ところが税収が少ないのでお金がない。そこで国債でお金を集めて予算を組まざるを得ない。国債の乱発がおかしいというのなら、国民は耐乏生活を我慢しなければな
らないんですよ。もちろん、使い道の問題はあります。バラマキ予算や不要な道路建設には不満もあります。しかし、お金の需要と供給のバランスがとれなければ、景気は上向かない。国民の多くは、「景気をよくしてほしい。でも税金は払いたくない」という。でもこの意識がある限り、日本経済はけっして上向かない。だから私は、「日本国民は覚悟が
足りない」と言うんです。
―― でも、日本の債務残高は2015 年には対国内総生産(GDP)比で250%に達すると予測されています。先進国平均は110 %。250 % は、新興国も含めた56か国で最悪ではないですか。すでに2010 年の日本の債務残高は227%となっています。
三原 日本人は物事をイメージだけでとらえ、正確に議論しない傾向がありま。たしかに「国民1人あたり過去最悪の約693万円の借金」などと言われたら、心配になるのも無理はない。しかし、国債は国民が政府に対する貸付金でもあるのですよ。国民は借金と同時に、政府への貸付金も保有しているわけですよ。しかも日本国債は95%が日本国内で買われているのだから、借り主が同時に貸し主なわけ。この点を忘れて「借金」だけをクローズアップするから不安が増幅してしまうんですよ。
――とすると、日本国債は心配無用ということですか?
三原 もちろん、心配はあります。国債の原資は国民個々人の金融資産で、それが銀行や郵貯経由で国債を中心にした債券で運用されます。でも、その金融資産が枯渇したらどうなるかが問題。少子高齢化社会を迎え、年金制度への不安が増幅したら、高齢者は貯蓄
を取りつぶしていかざるを得ない。国内に余裕がなくなったら、外国資本に頼らざるを得なくなる。すると国際市場で日本国債が売買され、日本国債の価値が不安定になる。
 
高利回りをとるか、安全性をとるか?
――せっかく景気が底を打ったという声が聞こえ始めたところでギリシャ経済危機が起き、欧州に波及して株価は下落しました。米格付け会社スタンダードプアーズは日本国債の長期信用格付けも引き下げました。日本も、ギリシャのように破綻する懸念はないので
しょうか?
三原 結論からいえば、そうしたリスクはまずない。全員がいっせいに国債を売り払えば別ですが、それは絶対に起こらないでしょう。まずギリシャと違うのは、日本政府は多額の資産を持つということ。日本の外貨準備高は約100兆円以上、中国に次いで世界第2位です。公務員住宅などの国の資産を含めると合計400兆円~500兆円という推計もあります。
しかも日本国債は外国人の保有が少ない。つまり国内で借金をまかなえるのです。ギリシャでは7割、ポルトガルでは5割を外国資本が保有している。彼らは投機という視点を重視するので、国際相場の動向如何でいっせいに売却するかもしれません。ですが日本国
債にはこの危険がない。
――ほとんど国内で買われるのは世界的には珍しいのですか?
三原 日本と中国だけ。逆になぜ外国人が手を出さないのかと言えば、日本国債に魅力がないから。超低金利ですからね。なぜギリシャ国債をみんなが買うかというと、金利が高いからです。でもなぜ金利が高いのか。それは「危険要因」があるからです。お金は高い利率を求めて動きますが、同時に常に安全性を考えます。ユーロが不安になったら円や
ドルが買われるのはその証拠です。資金が必要でお金を集めたいが危険要因を抱えている場合は、金利を高くしないとお金が集まらない。つまり金利が高いのはリスクが高いことの裏返しなのです。逆に、安全だからと人気が出れば、高金利にしなくてもみんなが
買ってくれます。日本の金利が低いのは、それだけ安心して預ける人が多いからです。
――ということは、日本人が考える以上に日本国債の安全性が評価されているということですね。
三原 でもね、日本国債の金利が低いのは、投資のチャンスが少ないことの証明でもあるんですよ。投資のチャンスがあれば、資金はそこに向かう。だけど行き場所がないから国債に向かうしかない。アメリカ国債の金利が高いのは、成長への期待が高いから。逆に日
本の銀行金利がなぜ低いか。それは「高くても借りたい」という資金需要がないからです。いま日本は二極化して、銀行が貸したいと思う企業は資金を必要としない。借りたい企業は問題を抱えている。ここが日本のゆがんだ点ですね。――国債が安全であることはわかりましたが、利回りを考えた場合、利益は見込めるのですか?
三原 今後、日本がインフレになり会社の収益が増えれば、自然に国債の金利も上がります。ですが、いまはまだそんな状態にはない。でもそもそも、日本人はリスクが嫌いだから安全性を求めて国債を購入するのでしょう? 安定性が高いとはイコール金利が低いと
いうこと。反対に新興国のように、リスクが高いから金利が高い場合もある。いざ購入するとしたら、木さてどちらを選ぶかですね……。
 
経済の先行き不安を嘆く前に今後の成長戦略を描け_
――では、日本経済回復の潤滑油は何でしょうか? 日本は今後、どうすればよいのですか?
三原 無資源国日本は加工貿易が得意で、それで外貨を稼いできましたが、ここで思い切って産業構造を変える必要がある。さもなくばアジアの新興国に競り負ける。アメリカではレイオフされた人間がどんどん起業している。奈落の底に沈んでいたデトロイトも電気自動車の開発で様変わりです。こうしたドラスティックな変化が起きるのも、アメリカがチャンスにあふれた国だからです。アメリカにはとんでもない発想をする人間がいて、それを認める風潮がある。だから、個性ある人間がどんどん伸びていく。しかし日本は、会社設立さえ容易でないし、融資も並大抵ではない。制度をいくらつくっても官僚に骨抜きにされて「仏つくって魂入れず」。せっかくつくった仏も、使い勝手が悪くて利用されない。
――今後、どうやって成長するのか、その路線をはっきり打ち立てる必要があるということですね。
三原 そのためには、起業家育成ための支援制度を充実させること。また企業が活動しやすいように、現在約40%の法人税率を引き下げるのも大切ですね。単純に考えると税収が減るようですが、その影響で企業活動が活性化すれば、結果的に税収が増える。
――企業の利益率を高める政策をとれば、長年のデフレが終息するかもしれませんね。
三原 日本の形がいびつなのは、株式市場を見るとよくわかります。円高になると株が下がりますが、これは間違い。円高下では加工貿易中心で輸出立国の日本は不利だという発想からです。しかし、無資源が日本の強みだった時代は終わり、いまはそれが最大の弱点になっている。世界では新興国を中心に「爆食」が始まり、資源は高騰している。そこで円安が進行したら、食糧、資源、工業原材料を輸入に頼る日本はひとたまりもない。労働力の問題でも、日本の労働コストは割高ですから、これまで得意としてきた加工貿易では安い賃金の国に負けてしまう。したがって今後、どんな国に変えていくのかの青写真を提起する必要があります。民主党の仕分け作業は評価しますが、それだけで国を変えられるものではない。公務員の無駄を是正するのは当然ですが、一方で、どうしたら効率的に成長を目指す国に変革できるか、そこで日本の得意技を発揮できように考えるべきなんですがね。しかしね、私は案外、これがいいチャンスだと考えているんですよ。日本はまだ輸出立国というイメージが強いから、円安を歓迎します。しかし、為替の影響で利益が増えるのは企業のためにならない。改革の努力を怠りますからね。苦しいほうが企業のために
なる。痛みを伴わない改革はない。「改革なくして成長なし」です。
――国債から離れて株式投資を考えた場合、今後の成長分野は?
三原 避けて通れないのは「グローバル」という単語。国際的に活躍できる企業を応援しないと、日本にお金が入ってこない。世界一高い法人税もネックですし、おまけに派遣法を改正して最低賃金を引き揚げるという。これでは企業の活力が失われるばかりです。
労働賃金の安い中国や東南アジアと競争して加工業など成り立つわけがありません。日本企業に「どうぞ、海外に出て行ってください」と言っているようなものです。
私は逆に、「こっちの水はおいしいぞ」政策をとれと提唱したい。日本を魅力的な国にして外国企業にどんどん東京証券取引所に上場してもらうのです。いまの日本は、国全体に魅力がなく、世界の流れに逆行している。いかに諸外国の人たちに憧れを持たせるような国にするか、それが問題ですね。
 

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