ファンケル健康院出版 百楽 柏木理佳の熟年世代の「マネー」講座 連載第17回

2011年08月01日

ファンケル健康院出版 百楽 

柏木理佳の熟年世代の「マネー」講座 連載第17回

 
個人の資産防衛にも影響?!
東日本大震災以後、日本経済はいつ復興できるのか?

 
 
金融危機後、世界経済が持ち直し始め日本へも好影響を与え始めたところに、東日本大震災の影響により、再び日本経済が低迷しています。節電のため製造業へも影響を与え、個人にとっては消費税引き上げ懸念から財布の紐も固くなっています。地震の影響はどんなところまでいつまで続くのか。また私たちはどんな防衛策をとったらいいのか。国際エコノミストの今井潔さんにお話を伺いました。
 

復興には長い時間がかかる。ゆるやかにじっくりと。
 
柏木 東日本大震災は未曾有の大被害をもたらし、被災された方は本当にお気の毒です。その一方で、経済面から見たら、被災地の宮城県、岩手県、福島県は、日本のGDP(国内総生産)の6%です。そのためでしょうか。エコノミストの中には、「地震による経済低迷は2四半期(半年)ほどで回復する」といった楽観視もあります。今井先生はどうお考えになりますか?
 
 
今井 数ヶ月での回復は無理でしょう。いま日本の経済の引率は自動車産業ですが、それに不可欠な部品・ブレーキのネジの製造の7割がいわき市(福島県)に集中しています。これがなければ車は完成せずトヨタ、ホンダなど自動車産業は大きな打撃を受けていて、それが悪影響をもたらしている。総合的に考えると10月から11月の回復は難しい。
 
 
柏木 でも、東北地方に工場のない製造業も多いのですが?
 
 
今井 その場合でも、日本の産業の空洞化が進むでしょうね。円高に加え、節電のため日本にある工場を海外に移す企業が増えています。すでに韓国のイヨンパク大統領は「日本のための工場団地を作る」と明言し、被害にあった日本企業を迎え入れるための準備を万全にしていることをアピールしています。中国も同じです。
 
 
柏木 では、回復は2~3年後ですか?
 
 
今井 それも難しい。国家予算が経済的に不足しますからね。現在の消費税5%を10%に引き上げる議論もありますが、これはGDPの6割を占める国内消費に悪影響を与えます。いまは「モノ余り」で、ただでさえ消費者は無駄なものは買わないのに、消費税をアップさせれば、ますます消費離れを引き起こし、デフレになって景気が悪化します。円高で輸出産業が痛手をこうむっているところに国内マーケットの低迷が追い討ちをかけられるわけです。
 
 
柏木 福島原子力発電所の1号機から4号機の廃炉は決定されましたが、コンクリートで固める方法だと作業に数年、廃炉には数十年の単位が必要だそうですね。東日本大震災からの復興は、よく阪神大震災と比較されますが、もっと長期的にかかりそうですね。
 
 
今井 数年単位でも、おそらく半分程度までしか持ち返さない。つまり、私が考えているのは、数年以上、ゆっくりと時間をかけて長期的に緩やかに回復するというシナリオです。
阪神大震災と比較した場合、忘れてはいけないのが、被災地の広さです。東北4県の広さは約51万平方Km。阪神淡路大震災の数十倍もの広さです。被災した土地も放射能汚染された土地も、最終的には国が買い上げるしかなく、国は、かなりの補償金を払わなければなりません。
 
 
柏木 放射能による野菜出荷制限指示などによる風評被害もありますね。農家への補償、高濃度の汚染水を海に放出したために生じる漁業組合への補償、そして汚染土壌の除去、運搬処理などの費用など補償は10兆円と言われていますね。
 
 
今井 土地を買い上げるだけで莫大な金額になりますし、原発の処理や補
償などにかかる費用は20兆円から30兆円が見込まれます。実際には国の負担は50兆円規模になるでしょう。
 
柏木 そうなると日本経済のさらなる低迷が予測されるわけなのですが、それなのに円は強く3月に76円の円高になりました。この円高傾向は続くのでしょうか?。
 
 
今井 欧米の為替通貨に比べると日本円は強いんです。ですから今年の秋以降、円は再び70円台になる可能性が高い。理由はドルやユーロを売るからです。日本経済が低迷しているとはいえ、欧米に比較すると安定している。貿易収支も黒字ですし、海外にも270兆円の貸付があります。どの通貨を売って、何の通貨を買うかという市場ですから、たとえ円に不安があっても、ほかに買うべき通貨がなければ取引は成り立ちません。新興国もまだリスクが高いし。
 
 
柏木 ユーロにも問題があるようですね。
 
 
今井 ギリシャの経済危機問題が深刻化しており、ポルトガル、アイルランドも財政難。EU加盟国の支援がなければ立ちいかない。でも、ユーロ圏の経済を牽引しているドイツは与党が選挙で敗北しEUを脱退まで示唆しています。
 
 
柏木 アメリカ経済は回復しているように見えますが・・・?
 
 
今井 アメリカ経済は「張子の虎」と同じです。アメリカの株式が上昇しているのは、一部の富裕層が株で得た利益を使って高級車などを購入しているためであって、アメリカ全体が回復したわけではありません。ダウ平均30種のうち22種はドル安による増益を得ているだけです。景気の指標になる「住宅着工数」は、2006年のサブプライムローン時期より下がっています。州ベースでみると、カリフォルニア州などアメリカの4分の1の州が破綻している状態なのです。アメリカは720億ドルの国債発行にともない、赤字が140兆2940億ドルに達しましたが、年金基金への拠出停止などの措置でなんとか債務不履行に陥らないようにしているわけです。ですが8月2日を過ぎると連邦政府の財政が破綻し、公務員給与が払えなくなり、政府機能がストップする恐れさえあります。
 
 
柏木 それを考えると今年の秋にはドル安、株安、債券安になるということですね。
 
 
今井 アメリカ経済の低迷で、ドル売りが促進され、円を購入する投資家を増えます。したがって秋以降、70円台の円高、株安が起きる可能性があります。しかし、悲観しないで下さい。その時は買いのチャンスなのです。ドルを買っておけばいずれは100円台に戻る可能性があるので差益が生まれますよ。それは日本は今後、ますます生産年齢人口が減少して経済の発展は見込めないのに、アメリカはその逆だからです。
 

日本には豊富な海底資源が。再び経済大国になる日が来る。
 
柏木 しかし日本の国債の評価も下がりました。日本株は上昇するということでしょうか? 
 
 
今井 日本の国債は97%が国内の投資家が占めており、そのうち保険・年金基金の割合が2割となっています。ところが、この地震の影響で保険会社は地震保険の補償額の支払いに追われ、そのため保険会社が国債を売却する可能性があります。国債の大事な機関投資家だった保険会社に代わり、外国人投資家が買う比率が増えるかもしれませんね。
 
 
柏木 たしかに、それは大きな不安要素ですね。
 
 
今井 でもそれと正反対に、日本は来年の後半以降、長期的に見れば、しっかりした上昇傾向になるかもしれません。その理由は今注目されている海洋資源です。一つ目は石油・天然ガスに代わる資源として注目されているメタンハイドレート。それが日本の南海トラフ(三重県から四国、鹿児島沖の海底)沖の1000メートルの海底にあることが発見されました。これは日本で消費される天然ガスの96年分の資源量があると推定されています。経済産業省も技術開発を推進し、産官学メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムを発足、2013年には世界初のテスト採掘が始まり2016年にも商用実用化を目指しています。すでに日本海洋発掘の関連銘柄に注目が集まっています。日本プロジェクト協議会(JAPIC)の海洋資源事業家研究会のホームページでは、「日本のEFZ(排他的経済水域)は世界6位の広さを誇り、その深海底には世界1位の埋蔵量といわれる海底熱水鉱床(金・銀・銅・鉛・亜鉛など含む)、第2位のコバルトリッチクラストやメタンハイドレートが存在することが確認されています」とあります。
 
 
柏木 自信をなくしている日本人には元気づけられますね。
 
 
今井 日本は毎年、原油27兆円、非鉄金属3兆円を輸入しています。これが輸入しなくなればかなりの貿易収支にプラスになる。海外に輸出できるようになるから日本の海底資源の規模は800兆円になると見込まれ、経済産業省は「海洋・エネルギー・鉱物資源開発計画」で2018年までに資源量評価、環境影響評価、資源開発技術の開発などの経済性評価(フィージビリティスタディ)を終え2019年には民間企業による商業化をすすめるとしています。外国人投資家もいっそう日本株に注目するでしょう。
 
 
柏木 いまは経済が低迷していても、長期的に見れば、悲観することはまったくないのですね。
 
 
今井 二つ目は、外交がうまくいけばですが、尖閣諸島で日中共同開発が始まれば1000億バレル、世界4位の原油が発掘されます。その価値は総額720兆円と試算されています。日中で半分ずつ配当したとして、360兆円の富が手に入ることになります。本格的な採掘が始まってこの資産が活用されれば2020年から2060年ごろまでは、日本経済にまた高度成長時代が訪れ、再び巨大な経済大国になることができます。1980年代のイギリスのサッチャー政権下での北海油田の資源がイギリス経済を立ち直らせたのと同じ構造です。
 
 
柏木 夢のような素敵な話ですね。いまの子供たちのためにも、日本経済は長期的に安定して欲しい。でもアメリカ経済が低迷すれば悪影響を受けるのではないでしょうか?
 
 
今井 実はアメリカにも隠し玉があります。それは頁岩(シェール)ガ
ス。それが将来の代替エネルギーとして注目され、大増産されています。その埋蔵量が推定の10倍ほどもあることがわかり、このおかげでアメリカも巨大な経済大国に再び回復するでしょう。
 
 
柏木 いいことずくめですね。でも盲点はないのですか?
 
 
今井 確かに、日本は生産年齢人口の減少、高齢者の増加による経済の活力が奪われることが問題。これをどう解決していくかです。これに対してアメリカは労働力に困らないので、やはり円の通貨価値が下落することは避けられません。しばらくは円安ドル高の時代が続くはずです。それでも、私は日本の将来を信じたいと思っています。21世紀には再び日本の時代が来るはずですよ。

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