子供の教育にかける費用や情熱が違う

日経アソシエ NBonline Associe 「超競争社会・中国のビジネスパーソン」
2008年08月21日
 私は中国に行くたびに子育てと仕事を上手に両立している中国人の女性に感心します。働いていても、子供の教育に一切手を抜かないからです。その熱心さは、教育費にかける支出の割合が非常に高いことからも分かります。
 例えば、私の知人の唯一の楽しみは、大学生4年生になる息子の成長で、「卒業したらアメリカの大学院に進学させたい。そのためには、自分の給料のすべてを捧げてもいい」と言います。さらに「日本人の親は、給料のすべてを捧げてもいいとは考えないようだが、中国の親は皆そう考える」と言い切りました。
 実際、彼女が突出して過保護なのではありません。「上海家庭教育最新発展白書」によると、18歳未満の子供を持つ家庭では、平均家庭総収入の23.6%が子供の教育のために使われているそうです。
 特に北京や上海の都市部の家庭では、その割合が3割から5割になるケースも珍しくありません。ほかの先進国や日本は、たった1割ほどだといわれているので、中国の子供にかける教育費用はその2~5倍にもなるわけです。
 そもそも中国では、子供に高度な教育を受けさせようとすると多大な学費がかかります。上海に住む知人は、「上海の小学校の場合、私立と公立では、授業料に40倍もの差がある。公立の場合は無料に近い学費で通えるが、私立の場合、年間30万円から50万円もかかる学校もある」と嘆いています。
 都市部の家庭の平均年収が24万円ほど。年収と同等かその倍近くの学費がかかることもあるわけです。日本で考えれば、年収500万円の家庭であれば、子供の学費に年間500~1000万円もかかる計算になります。これが中国では、「医者や弁護士にさせたい」といった特別なケースではないため、教育熱度は過剰といえます。
 なぜそんなに子供のために一生懸命なのかというと、知人は「近所で同じ25歳の若者を比べたら分かる。一人は高給取りの外資系企業の社長の秘書。もう一人は3流企業でその人の3分の1以下の給料。次世代はさらに格差が広がる」と言います。
 特に日本と同じように、どの家庭も英語の学習には力を入れます。中国のデパートは、どこに行っても「英才教室」と書かれた子供専用の英会話学校がテナントに入っているほどです。
 英語だけでなく、スポーツなどの習い事も幼児期から積極的にさせます。それも高い費用をかけて個人レッスンで。国際人としてコミュニケーションが取れるように、それほど中国ではなじみのないテニスなどを習わせる家庭もあります。一般的な共働き夫婦の月収は5万円ほどですが、そのうちのなんと半分を子供の習い事のために費やしている家庭も少なくありません。
仕事場や夜の食事会まで子供を連れていく
 日本でも教育熱心な母親はいますが、そういう人の多くは、専業主婦だったり、子供が帰宅する時間に帰れるパートを選んで働いていたりするのではないでしょうか。子供の教育上、仕事より子供と一緒にいる時間を優先させる母親が多いからだと思います。
 ところが中国の場合は違います。子育てをしていても、仕事に妥協はしません。もちろん、働かなければ高度な教育を子供にさせて上げられないという事情もありますが、彼女たちは、働いて自分の社会的地位が上がれば、子供の将来にもプラスになるという考えを持っています。
 でも実際は、働きながら子育てをするのは大変です。フルタイムで働くとなると、子供がいない人と比べて時間の融通も融通が利きません。ではどうするのでしょうか。
 例えば、職場の人間と夜の飲み会が入ったとします。そうなった場合でも、中国の女性は、子供が小学低学年であってもその飲み会に堂々と子供を同行させます。日本の職場では考えられませんね。
 「夜の職場の飲み会に子供を参加させるなんて、教育上よくない」と思うかもしれませんが、彼女たちはそう思いません。子供にとっても教育になると、どこでも連れて行きます。
 私の知り合いで北京の百貨店のテナントに入っているネイルサロンの女性経営者(35歳)は、息子(小学2年生)の夏休み期間中は、店に一緒に連れてきて簡単な仕事の手伝いをさせていました。「貧富の格差を現場で見せることで、子供の職業意識が高まる」だからだそうです。
日本人のフリーターは「信じられない」
 確かに、中国では親が見栄を張らずに朝から晩まで一生懸命に働いている姿を子供に見せます。子供はその姿を見て、仕事への関心を高めます。
 日本に留学している中国の大学生に「将来、何になりたいか」という質問をすると、ほとんどの学生が自分の就きたい職業をはっきり答えます。働くことに対する意識の低い日本のフリーターのことを「信じられない」と軽蔑する学生も多くいます。この考えの違いは、育ってきた家庭環境が違うからでしょう。
 日本では子供を仕事場に同行させるのはマナー違反と見られますが、必死で働いている中国人女性は、祖父母に子供を預けられない場合や子供の夏休み中などは、マナーよりも子供と一緒にいることを優先します。それを容認する社会もできています。
 また、人前でも子供を大声で叱ります。だからなのか、他人の子であっても、周りにいる人が全員で育てていくという考えが普通になっています。
 子供の頃から必死で働く親の姿を見てきた中国人学生は、働くことへの意識が日本人学生と大きく異なります。日本でフリーターが多いのは、親を通して厳しい社会の現実を見てこなかったことが1つの要因かもしれません。
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