東レ経営研究所「経営センサー」中国民営企業のコーポレートガバナンス

2013年05月01日

東レ経営研究所
経営センサー5月号 2013、No.152
中国民営企業のコーポレートガバナンスの現状
―独立取締役の役割と政府の関与―

                                
 ポイント
中国のコーポレートガバナンスは十分に機能していない。大株主である政府が株主総会の支配権を通して取締役を送り込んでいるため取締役会が機能していない。
中国のコーポレートガバナンスの構造は、先進国の構造を参考にしたが、執行役と取締役が明確に分離されていないため監査・監督機能が十分でない。
法律上、民営企業内の党組織の関与は強化され、民営企業家の政府所属者数、民営企業内の政府組織者は増加傾向にあり、市場経済と逆行しているのが実態である。

1はじめに
中国は市場経済への移行段階である社会主義体制中に、取締役会は米英を、取締役会と監査役会の関係は日本を、取締役会と執行役員との関係は米国を、監査役会への従業員の経営参加制度はドイツを、独立取締役に責任や権限を多く与える構造は米英を参考に取り入れたが、国有企業改革後、旧国有企業形態が一部継続されている現在の中国企業に適合しているとはいえない。執行役と取締役の分離が不明確で、監査・監督が十分に機能していない。
国有企業の株式制度転換後の株式所有構造に問題が残されている。政府である大株主が取締役との利害関係者であるため取締役会が機能していない。上場後の企業のモニタリングは、国家所有の特殊会社、メインバンク、証券市場の証券監督管理委員会等のうち、誰か監査・監督するのか未だ構築されていないのが現状である。
監査・監督機能の強化のため、2005年、公司法により独立取締役は取締役の3分の1以上で2人以上の設置、そのうち1人は会計士であること等、具体的に独立取締役設置が義務付けられた。独立性に関しては、1年以内に上場企業、または関連企業に直系親族あるいは主要社会関係を有さないこと、現在及び1年以内、直接または間接的に当該企業の発行済み株式の1%以上を所有、または上位10位大株主のうちの個人株主とその直系親族でないこと等が規定されている。
 しかし、実際には法律で義務化されていても処罰が明確でないため、独立取締役の存在は形式的なものにとどまっているのが現状である。
また、公司法「企業内の共産党基層の活動は共産党規約に従って処理する」(第17条)では企業の党員の役割など記載ないが、共産党の規約では「国有企業の党組織は政治的中核の役割を発揮し、企業の重大問題の決定に参加すること」とあり、株式会社に対しては「指導的役割に関する方針」で経営者から事前に議案提出後、党組織で審議承認後、取締役会に提出することなど重大問題の政策決定に対する党組織の関与を具体的に明記しており、人事管理・配置まで関与できるようになっている。また、近年では2002年第16回共産党大会で私営企業に対する「党指導強化」で「非公有制企業における党建設を強化、党の方針や政策を実行しなければならない」とし、国有企業ばかりか民営企業においても政府の関与を強化しており、この傾向は今後も続くことが予測される。それに伴い民営企業内の政府所属者を増加、企業家による自ら利害関係を求めて政府組織への参加が増加している。
対外投資も増加し経済大国になった中国は、表面的には独立取締役設置する等市場経済に向かっているが、その実態は逆行しているともいえる。

2 独立取締役と情報の質
企業の透明性や独立性を図る情報公開の量と質に関して4分野の分析結果、独立取締役の人数の多さと情報開示の質の関連性はなく、独立取締役の人数が多いからといって情報の質や量が高いとは限らない結果となった。
独立取締役の取締役会での出席は、電話やインターネットを通じたWEBカメラ等による出席も可能としている企業も増加しているが、出席方法を具体的に公開している企業は一部である。

3 企業内における政府の関与
国有企業は同分野で、民営企業と比較して独立取締役のプロフィールをはじめ企業統治に関する情報公開が極めて少ない。農業食品関連分野の国有企業の黒龍江企業は取締役は全員が党員書記と副書記で、独立取締役は全員が党員で大学教授で経営経験者も会計士もいない。独立取締役の報酬は農業食品関連分野の中で最も高く、取締役の報酬については情報提供は得られず、自ら企業内部の政府所属者が情報の質と量を管理していることが推測される。
4分野では企業規模と政府所属者数は比例しておらず、農業食品関連企業で全員が政府組織所属者であるのは時価総額が最小規模の雛鷹農牧集団であり、全員が現代と過去において政府組織所属者である袁隆平農業高科も時価総額は小さい。
また、4分野の取締役と独立取締役の政府所属者の割合を1年前と比較分析したところ、大幅な増加はみられなかったが、温州等の民営企業の企業家においては自ら利害関係を求めて政府組織への所属、参加する人が増加している注1)。

4 政府所属者の多い農業食品関連分野の形式的な監査・監督機能
図表1のように農業分野の所有制形式は国有持株絶対支配公司であり、国が支配するが民営企業の参入が可能分野である。そのため取締役の政府所属者の割合は48%で、独立取締役の政府所属者は66%、過去の所属者を含めると、それぞれ61%、69%で他分野より政府関与が強い。
独立取締設置と業績連動性の分析結果は、農業食品関連・製造、製薬・果汁の9割の企業の業績は伸びており多少なりとも独立取締役設置による業績促進効果がみられる。7割の独立取締役の報酬が業績に連動し増加している。しかし、全企業の独立取締役の報酬はほぼ全員一律で、取締役と比較すると最大で70分の1と差がある。また、農業食品関連企業のうち9割の独立取締役は他社の独立取締役や役員を兼務し、そのうち5割が2社以上を兼務している。時間的に余裕がなく必要な情報収集ができず情報の不平等が伺える。

独立取締役の独立性を図る上で専門委員会、特に監査委員会のメンバー構成は監査・監督機能がなされているかを判断するために重要である。監査委員会に会計士資格を有する独立取締役を設置していなければ独立取締役の監査・監督の役割は表面的なものにすぎない。情報公開している4社は独立取締役のほぼ全員が監査委員会に所属しているが、緑色企業は会計士の独立取締役はいない。専門知識がない独立取締役が表面的な監査をしているにすぎない。
また政府所属取締役が委員会の構成員であると政府の関与が強いことが伺えるが、4社においては、利害関係のある取締役(政府所属者を含む)が監査委員の構成メンバーではなく外部の独立取締役に一任し最低限の独立性は保たれていることが伺える。

政府所属取締役が報酬委員会の構成メンバーとして、企業内の経営陣の報酬等に関して政府関係者の影響力を及ばせていることが推測されるのは緑色食品企業(以下、緑色
)だけである。緑色は、専門委員会のうち監査委員会では全員が独立取締役のみで構成されているが、指名委員会に取締役が構成メンバーになっている。しかし、その取締役は政府組織所属者ではないため、指名委員会を通して企業内の人事等における政府の影響は限定的であることが伺える。
ところが企業における独立取締役数は、中華薬業は独立取締役設置人数の2人の規定を下回り1人(会計士)しか設置していない。独立取締役が少数では独立した意見や監査・監督の役割として企業に与える影響力や権限は十分ではないことが推測できる。
また、独立取締役のうち1人は会計士でなければならない規定を下回っている企業は全体の5割も存在している。監査・監督機能における専門的知識が高い独立取締役である会計士が存在しなければ、企業の監査・監督機能は形式的なものにとどまり、企業に与える影響や権限が充分ではないことが伺える。
国家農業部等から国家トップ企業として選出された超大現代農業は、独立取締役4人は若手や農業や食品などの専門知識者、会計、経済分野から幅広く選任し、会計士1人を含む独立取締役4人全員が監査委員会に所属し取締役は所属していない理想的なモデルである。しかし、会長の郭浩等が機関投資家に第3者割当増資に関する情報を漏らしたというインサイダー疑惑があり、2012年には監査法人が辞任している。監査・監督機能がされていないことは明確である。
 未上場企業では林檎の生産販売企業、華光食品公司集団にアンケート・ヒアリングを実施したが、独立取締役について周知しておらず今後も設置予定はないという回答であった。独立取締役制度について規定のない未上場企業では積極的に独立取締役を設置しているところは少ないのが現状であろう。

おわりに
本論文は、上場企業の農業食品関連企業10社、製造企業7社、製薬企業4社、果汁企業4社、さらに未上場企業2社にアンケート、ヒアリング2)を試み各社の年次財務報告書を手に入れ調査分析した結果を基に、5つの先行研究と比較、2つの独自調査分析の結果を基に論証した。

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