独立取締役の監査・監督機能 中国上場企業の農作品分野における企業統治の一考察(本文)

2014年05月25日

中国上場企業の農作品分野における企業統治の一考察
ー独立取締役の監査・監督機能を踏まえてー

アジア市場経済学会年報
第17号 2014

1.はじめに
中国の企業統治をめぐる議論は、1993年の現代企業制度構築等の政策展開を契機に活発になった。主要な観点は以下の3つが存在していると考えられる。第一に株主の財産価値の保証とその最大化、また株主による経営者の選択とコントロール問題・インセンティブ付与の問題を重視する(張維迎・栄兆梓・何玉長・李健・劉偉等)。第二に、市場メカニズムの決定的役割を強調し、情報と競争化による市場機構の構築が最重要である(林毅夫等)。第三に、利害関係者の相互制約作用やその制度化(呉敬蓮・王岐岩・呉家俊等)である注1)。
企業統治の支配類型の議論については、大株主支配型、内部者支配型、経営者支配型の3類型があると指摘されている。株式制度転換後の国有企業の株式所有構造は、大株主支配型であるが、大株主で、いわゆる政府が株主総会の支配権を通して取締役を送り込んでいるため取締役会が機能していない。

中国の企業統治構造を国際比較すると、取締役会と監査役制度については二院制である日本の取締役会と監査役会と類似し、業務執行体制に関しての取締役会と経営陣との関係は米国の役員制度に類似している。監査役会における従業員代表の参加は、二元制であるドイツの共同決定システムに類似している。また、独立取締役に責任や権限を多く与える構造は米英を参考にしている。しかし、中国は市場経済への移行段階の社会主義体制中に先進国の企業統治構造を参考に取り入れたため、国有企業改革後、旧国有企業形態が一部継続されている現在の中国企業に適合しているとはいえない。

また、業務執行役と取締役の分離が不明確であるため、監査・監督が十分に機能していない。上場後の企業のモニタリングは、国家所有の特殊会社、メインバンク、証券市場の誰が監査・監督するのか、未だ構築されていないのが現状である。
そこで、企業の監査・監督機能の強化を目的に、2001年「上場企業における独立取締役制度設置の指導意見」の定款が改定され、独立取締役設置が義務付けられた。

政府と民営企業の利害関係に関する先行研究では、政府と民営企業家等には「縁故共産主義」の関係があるとの指摘(Bruce Dickson,2008)と、政府から自律的な市民社会を形成しつつある等の指摘(郁・江・周他,2008)がある注2)。
中国民営上場企業の企業統治についての先行研究には、コントロール権、キャッシュフロー権とコーポレート行動に関する分析(Xu Yongbin・HuZuguang, 2006)がある。また、独立取締役に関する先行研究では、上場企業、及び国有企業の独立取締役設置による業績促進効果(袁萍,2006)、情報の質量の関連性(彭有桂,2006)等がある。しかし、企業形態において民営上場企業だけに絞り、独立取締役の監査・監督機能に焦点をあてた論文は少ない。さらに民営上場企業を国有支配分野構造による分野別に分けて独立取締役を分析している論文は極めて少ない。

本論文は、筆者が分析した国有支配構造の5分野の民営上場企業のうち、「国有経済の参入・撤退が自由な業種」に位置する農作品分野を中心に独立取締役の独立性、監査・監督機能の機能を分析し、独立取締役の役割として十分な監査・監督機能の役割が必要であることを論証する。

まず、上場企業、及び国有企業の独立取締役の先行研究をレビューし、民営上場企業の農作品分野の独立取締役の分析を追加、独立取締役の役割を探る。次に、監査委員会における監査・監督機能を分析した結果を論じる。民営上場企業の農作品分野の独立取締役の監査・監督機能は形式的なものでしかないという仮説を明らかにする。

なお、国有企業は有限責任会社の形態である国有独資会社、国有資本が筆頭株主となる企業、実質的に支配権を行使する企業等あるが、本論文ではこれらを包含したものを国有企業と定義する。民営企業は民営経済に区分され、広義の民営経済には国資企業及び国資持ち株企業以外の各種の経済形態を総称し、国内資本による集団所有、私営、個人、混合経済が含まれるが、本論文では50%以上の株式を保有している個人による企業を民営企業と定義する。

2.独立取締役に関する既存研究のレビュー
2-1 独立取締役設置人数と情報の質・量の関連性

2005年、公司法で上場企業に独立取締役設置が義務付けられ、独立取締役による監査・監督機能が期待された。独立取締役設置人数は2人以上、そのうち1人は会計士であること、取締役の3分の1以上を占めることが規定に示されている。

独立性に関しては1年以内に上場企業、または関連企業に直系親族あるいは主要社会関係を有さないこと、現在及び1年以内に直接または間接的に当該企業の発行済み株式の1%以上を所有、または上位10位大株主のうちの個人株主とその直系親族でないこと等が厳しく規定されている。しかし、筆者が調査した結果、独立取締役の規定人数を順守していない企業も存在した。

また、独立取締役の多くが、政府の官僚や政府系のシンクタンク等の顧問等を兼務する等、政府の関与が強い企業も存在した。本論文では政府関連組織に所属している独立取締役を政府組織所属者と示した。

上記のような設置状況の中、表1のとおり、先行研究には上場企業及び国有企業の独立取締役の役割について分析している。業績促進効果や情報公開の量や質等との連動性の調査結果により、独立取締役設置によるその影響力、実行力を探ろうとしている。

まず、彭有桂(2006)は、独立取締役の人数の多さと情報開示の質・量の関連性はないと指摘している注3)。筆者が調査した農作品分野においても関連性はない結果となった。例えば、独立取締役を3人設置している連発国際控股有限公司(以下、連発)や緑色食品控股有限公司(以下、緑色)は専門委員会の出席率や詳細を公開しているが、独立取締役を4人設置している超大現代農業控股有限公司(以下、超大)、亜洲果業控股有限公司(以下、亜洲)、雛鷹農牧集団控股有限公司(以下、雛鷹)、袁隆平農業高科技控股有限公司(以下、袁隆)は、上記の情報等を公開しておらず情報量は少ない。

2-2 政府組織所属の独立取締役設置による情報の質・量の関連性
余峰燕(2011)は、政府組織所属者である独立取締役を雇用した企業は、そうでない独立取締役を雇用した企業に比べて情報の質がマイナスになると指摘しているが注4)、筆者が調査した農作品分野では、政府関連組織に所属している独立取締役の比率が多い企業が情報開示の量が少なく質がマイナスであるという結果はみられなかった。

しかし、国有企業である黒龍は、独立取締役のプロフィールをはじめ企業統治に関する公開情報が極めて少ない。民営企業ではあまりありえないが、取締役は全員が党員書記と副書記である。独立取締役は全員が党員である。取締役と独立取締役が直接、政府党員であり、非常に政府の関与が強いことがうかがえる。

また、他の企業は会計士、経済や経営の専門家、農業専門家等の分野から幅広く独立取締役を選任しているが、黒龍は、独立取締役の全員が大学教授である。専門分野の詳細等は明記されていない。それ以外の経営経験者も会計士も独立取締役として設置していない。独立取締役は形式的な設置でしかないことがうかがえる。
取締役の報酬についての情報提供は得られなかったが、独立取締役の報酬は農作品分野の中で最も高い。このように国有企業の黒龍の場合、企業内部の政府所属者の割合が多く、情報の質と量を管理していることが推測される。

2-3 企業の規模と企業内部の政府組織所属者の割合
企業の規模と比例して幹部出身者、責任者出身者の比重が高くなると指摘している先行研究もある注5)。
しかし筆者が調査した農作品分野では企業の規模と政府所属者数は比例していないという結果がでた。

表2のように210億元と最大規模の時価総額を誇る新希望六和控股有限公司(以下、新希望)の独立取締役は、全員が政府組織所属者で、取締役は7人のうち政府組織所属者は2人である。180億元の国有企業の黒龍は、取締役人と独立取締役の全員が政府組織所属者である。81億元の亜洲は、取締役5人のうち2人、独立取締役は4人のうち2人と半数が政府組織所属者である。69億元の超大は、取締役、独立取締役がそれぞれ6人のうち1人、4人のうち1人が政府所属者である。2.9億元の袁隆は、取締役4人のうち半数の2人、独立取締役は全員が政府組織所属者である。国有企業の黒龍江を除いて取締役、独立取締役の全員が政府組織所属者であるのは、時価総額が最小規模の雛鷹である。

2-4 独立取締役の政府組織所属者の推移
民営企業家の政府組織への参加率は増加していると指摘している先行研究もある注6)。農作品分野においては近年の各企業の取締役と独立取締役の政府組織所属者の割合を比較した結果、表3にように代わらないか、むしろ減少している企業も存在した。
例えば、連発の企業家を含む取締役は2007年の5人から2010年は3人に減少したが、政府組織所属者でない5人全員が退任し、政府組織所属者2人が就任した。独立取締役は、政府組織所属者4人が3人に減少した。亜洲の政府組織所属者は2009年と2012年ともに取締役(企業家含む)は同じ2人である。独立取締役は政府所属者が1人増え、現在2人が政府所属者である。超大は企業家のみが政府組織所属者である。取締役(企業家含む)は2006年の7人が2010年には6人に減少、そのうち4人が代わったが全員が政府所属者でない。独立取締役は4人とも同じメンバーで政府組織所属者も変わらず1人である。緑色は2007年の取締役(企業家含む)3人のうち政府組織所属者でない2人が2012年に退任、新たに政府組織所属者でない1人が選任された。独立取締役は、政府組織所属者は代わらず3人である。2007年の5人から2011年に2人に減少した中華薬業生物科学有限公司(以下、中華)は、取締役の詳細を公表していない。独立取締役2人は、政府組織所属者だけの1人が退任した。

2-5 独立取締役設置による業績促進効果
業績と独立取締役設置に関する先行研究では、袁萍等(2006)は独立取締役の設置は業績促進効果があると指摘している注7)。筆者が調査した農作品分野においても、全企業の業績は伸びており独立取締役設置は業績促進効果があるものとも考えられる。
ちなみに企業の業績と独立取締役の報酬の連動性を分析した結果、企業の業績は増加しているのに取締役の報酬が減少している企業は10社のうち3社、52人のうち13人、25%を占めていた。独立取締役の報酬は全員が連動している。しかし、報酬金額は全員一律で、取締役の報酬と比較すると最大で70分の1の差があり、非常に低い。独立取締役の報酬は非常に低く、エージェンシー理論において独立取締役の報酬(w)が最高の行動(a1)を導くモチベーションにあたらないことがうかがえる注8)。

加えて、筆者が企業の売上と配当金の連動性を調査した結果、2006年から2012年の5分野において、多くの企業では、売上増加年度に配当金、取締役・独立取締役の報酬に連動性がみられた。しかしながら、売上減少年度では、農作品分野では全社株主への配当金、並びに独立取締役の報酬にも変化はみられず、取締役の報酬だけが売上に連動し減少した。他の分野では売上減少年度においても企業内の報酬は減少させても株主への配当金額を増加している分野もある。

先行研究では、調査対象に国有上場企業も含めていることから、民営上場企業だけの今回の調査結果とは相違があるのは当然である。
以上の調査結果から、民営上場企業の農作品分野においては、以下のことが解釈できる。すなわち独立取締役設置人数の比率が高い企業において情報公開の質・量のレベルが上がる傾向はみられなかった。一方、政府所属者の独立取締役の比率が多い企業のほうがそうでない企業より情報公開の質・量が悪いということもうかがえなかった。独立取締役設置による企業の業績促進効果はみられた。しかし、経済成長国において独立取締役設置のみが原因かどうかはいいがたい。つまり、現状の独立取締役設置状況では、業績促進効果はあるが、情報の量・質等への影響力、効果は限定的であると思われる。

企業の規模と政府所属者である取締役、独立取締役の人数は比例関係になく、企業内の取締役、独立取締役が政府へ所属する割合が増加している傾向もみられなかった。
既存研究の大半が独立取締役の役割に重点を置いており、監査・監督機能の調査研究結果は少ない。武立東等(2007)は、実証的分析により独立取締役の比率が高くなるほど、究極の所有者の横領行為を抑制できると指摘している。本論文では、表4の分野別業種別国有支配構造のうち「国が支配を保持すべきだが非国有資本の参入が可能な業種」の農作品分野の監査委員会における独立取締役の監査・監督機能、独立性、役割を探る。

3章 農作品分野における独立取締役の監査・監督機能
3-1 分野別業種別国有支配構造における独立取締役の独立性
表4のように農作品分野は、「国が支配を保持すべきだが非国有資本の参入が可能な業種」に位置する。取締役の政府組織所属者の割合は52人中25人の48%で、独立取締役の政府所属者は33人中22人の66%にものぼる。筆者が分析した他の4分野に比較すると、独立取締役における政府の所属者が圧倒的に多く、民営上場企業でも政府の影響が大きい分野であるといえる。「絶対的な支配地位を保持すべき業種」に位置する銀行業は35%、「国有経済の支配を一層強化する業種」に位置する医薬製造業は24%、「国有経済が撤退すべき業種」に位置する食品製造及び加工業の13%、「国有経済の参入撤退が自由な業種」の製品製造業の11%である。
取締役・独立取締役の政府組織所属者の割合は、表4の「国有経済が絶対的な支配地位を保持すべき業種」や「国有経済の支配地位を保持すべきだが非国有資本の参入可能な業種」が高く、「国有経済が撤退すべき業種に位置している」、「国有経済の支配を一層強化しなければならない業種」、「国有経済の参入撤退が自由な業種」が低いことが明らかになった。

3-2 監査委員会における独立取締役の監査・監督機能
まず、企業内に会計士の資格を保有している独立取締役は、超大、亜洲、中華、連発、雛鷹に1人ずつ設置している。しかし、緑色、新希望、華英、袁隆、さらに国有企業の黒龍にも存在しておらず、独立取締役のうち1人は会計士でなければならないという規定を下回っている企業が全体の5割も存在している。
また、規定では、独立取締役の人数は2人以上設置しなければならないが、中華は独立取締役設置人数の2人の規定を下回り1人しか設置していない。独立取締役の比率が低いと、企業に与える影響力は限定的であることが推測できる。
専門委員会の中でも監査委員会の構成員の構造は、独立取締役の監査・監督機能をはかる上で重要である。監査委員会のメンバーに会計士の資格を有する独立取締役を設置しているかどうかは、十分な監督能力があるか否か、監査が可能かどうかを判断する材料になる。また、監査委員会に政府所属の独立取締役の構成員が多いと政府の関与が強く独立性に欠ける。加えて、取締役が構成員であると、独立取締役に一任せずに内部の取締役が影響を及ぼしていることがうかがえる。さらに政府所属の取締役が構成員であると政府の関与が強いことがわかる。
次に、表5のように監査委員会に会計士資格保有の独立取締役を設置しているかを調査した結果、緑色以外の超大・亜洲・中華は、設置している。その他の企業は委員会の詳細を公開していない。
緑色のように監査委員会に会計士が構成員に含まれていなければ会計監査の専門知識がない独立取締役が表面的な監査をしているにすぎない。

公表企業は全社とも取締役は監査委員会の構成員ではない。利害関係のある内部の取締役が構成員ではないということは、監査委員会においては、外部の独立取締役に一任していることがうかがえる。
監査委員会以外の専門委員会では、亜洲、超大の2社が政府組織所属の取締役が報酬委員会のメンバーになっている。報酬委員会に、政府組織所属の独立取締役が存在するのは、超大、亜洲、緑色である。経営陣の報酬等に関して政府の影響が及んでいることが推測される。指名委員会では政府組織所属の独立取締役は緑色に3人存在している。人事権を通して政府の関与がうかがえる。
会計士でない独立取締役が監査委員会へ設置されているということは、監査・監督機能は形式的であることがうかがえる。会計士資格保有の独立取締役が政府組織に所属者である企業もあり、監査そのものが政府の管理の下にあることが推測される。また、たとえ会計士資格保有の独立取締役が政府所属者でなくても他の政府組織所属者が構成員として存在している。そのため独立的な意見をいいづらい構造であることがうかがえる。
すなわち、農作品分野の監査委員会における独立取締役の監査・監督機能は、形式的なものにしかすぎないという仮説をおおかた指示できるといえよう。
 
3-3 緑色食品控股有限公司の独立取締役の独立性と監査機能
図1のように緑色の監査委員会は独立取締役のみで構成されており、独立取締役に一任していることがうかがえる。しかし独立取締役は全員が政府組織に所属している。監査委員会を通して政府の影響が及ぼされていることが懸念される。
経営戦略・企業統治委員会に取締役会長が、また指名委員会に取締役が構成員メンバーである。情報公開企業のうち指名委員会に取締役がメンバーであるのは緑色だけである。取締役は政府組織所属者ではないため、政府の影響は限定的ではあるが、利害関係のある究極の所有者である取締役が企業への影響を及ぼしていることがうかがえる。

ちなみに、不祥事企業である超大は、国家農業部等から国家トップ企業として選出された。会長の郭浩等が機関投資家に第3者割当増資に関する情報を漏らしたというインサイダー疑惑があり、2012年には監査法人が辞任している。イメージアップ戦略として企業内に若手や農業や食品などの専門知識者、財務、経済分野等から幅広く選任した独立取締役4人を設置している。そのうち政府所属者は1人である。監査委員会には、会計士1人と政府所属の独立取締役1人等が構成員で、取締役は所属していない。
監査委員会での政府組織所属の独立取締役の影響が及んでいることがうかがえる。また、独立取締役が、政府に影響力のある会長が自己の利益を追求した行動を抑制することができず、監査・監督としての役割が果たせなかったことは明確である。

おわりに
表1の業種別国有支配構造の「国有経済が絶対的な支配地位を保持すべき業種」にある銀行業分野から11行、「非国有資本の参入可能な業種」の農産品分野から9社、「国有経済の支配を一層強化しなければならない業種」の医薬製造分野から8社、「国有経済が撤退すべき業種」の果汁分野から9社、「国有経済の参入撤退が自由な業種」の製品製造分野10社、比較のため国有企業は銀行業から4社と農作品1社を調査分析した。 情報の平等性を重視したためサンプル数は決して多くはないが他市場より厳しい上場条件で情報公開量も多いB株市場に上場している民営企業を分析対象と、アンケート、ヒアリングを試みると共に各社の年次報告書、財務報告書を手に入れ調査分析した。そのうち本論文は、農作品分野の調査結果を基に、先行研究のレビューと独自調査の追加結果を仮説にともない論証した。
公司法には、党委員会と企業の関係、影響力等の明記がないが、党の規約には国有企業ばかりか民営企業においても企業の細部にわたり介入し最終決定をする必要があること等の記載がある。独立取締役の独立性の定義は低く、また他社との兼務が5社まで認められていること等、法律上の改善も必要である。
筆者の調査結果においても民営上場企業の農作品分野では、大多数の企業において独立取締役の独立性や監査・監督機能は機能的に実行されておらず形式的なものでしかないことがうかがえた。
上場企業であるにもかかわらず、独立取締役設置人数や会計士設置人数等の法律を遵守していない企業も存在する。監査委員会に会計士の独立取締役を設置していない企業もあり、大多数の企業の独立取締役の監査・監督機能は形式的なものでしかないことがうかがえる。政府所属の独立取締役が監査委員会に所属しており政府の関与があり独立性も低いことが明らかになった。
本来の設置目的である独立取締役の監査・監督機能の役割は、企業統治において重要であり強化する必要がある。そのためには、規定の遵守、罰則の強化が必要である。
民営上場企業の独立取締役の監査・監督機能を論証するには、むろん監査委員会だけの分析だけでは不十分であり、企業内のモニター機能を分析する必要がある。また農作品分野だけでなく5分野の民営上場企業の調査を加える必要がある。さらに不祥事企業と独立取締役の監査・監督機能・横領抑制機能の関連性等を論じる必要があるが、それらは今後の課題としたい。

注1 川井伸一(2003)「中国上場企業―内部支配のガバナンス」『創土社』,pp.5-10。
注 2 黄媚(2010「中国の利益団体と『強い資本、弱い労働』の現状―温州市私営企業家調査2008年に基づいて」『アジア研究』No56,No.1・2,p5。
注3 彭有桂・楊青(2006)「独立董事与審計委員会執行効果研究」『武漢・財会通讯』。
注4 余峰燕・郝项超(2011)「具有行政背景的独立董事影响公司财务信息质量么?-基于国有控股上市公司的实证分析」『南開経済研究』。
注 5 張厚義・劉文撲(1995)「中国的私営企業主」『知識出版社』,pp.198。
注 6 廖意如・金浩・王春光編(2008)「温州非公有制経済人士政治参与問題研究」『2008年温州経済社会形勢分析与予測』北京・社会科学文献出版社,pp.325-342,前掲注2。
注 7 前掲注2,敖帯芽(2005)「私営企業主階層的政治参与」広州・中山大学出版社,袁萍・劉士余・高峰(2006)「关于中国上市公司董事会、監事会与公司業績的研究」『北京・金融研究』。
注 8 菊澤研宗(2007)「コーポレート・ガバナンスの行動エージェンシー理論分析」三田商学研究第50巻,第3号。

参考文献
日本語学術著書・学術文献
青木昌彦(1995)『経済システムの進化と多元性―比較制度分析序説』東洋経済出版社。
青木昌彦・奥野正寛(1996)『経済システムの比較制度分析』東京大学出版会。
柏木理佳(2009)『中国のグローバル化と経営管理』晃洋書房。
金山権(2008)『中国企業統治論』学文社。
金山権(2000)『現代中国企業の経営管理』同友館。
川井伸一(2003)『中国上場企業―内部者支配のガバナンス-』創土社。
菊池敏夫(2007)『現代企業論―責任と統治』中央経済社。
菊池敏夫・太田三郎・金山権・関岡保二編著(2012)『企業統治と経営行動』文眞堂。
菊池敏夫・厚東偉介・平田光弘編著(2008)『企業の責任・統治・再生―国際比較の視点』文眞堂。
菊池敏夫・平田光弘(2003)『企業統治(コーポレートガバナンス)の国際比較』文眞堂。
菊澤研宗(1995)「エージェンシー理論分析」『コーポレート・ガバナンス―日本とドイツの企業システム』中央経済社。
菊澤研宗(2004)『比較コーポレート・ガバナンス論』有斐閣。
ジョン・スコット・仲田正機・長谷川治清著(1983)『企業と管理の国際比較―英米型と日本型―』中央経済社。
小関勇(2010)『東アジア証券市場におけるコーポレート・ガバナンス』税務経理協会。
時永祥三・池田欽一(2005)『エージェント理論による企業行動分析』白桃書房。
佐久間信夫編著(2005)『アジアのコーポレート・ガバナンス』学文社。
座間紘一編著(2012)『中国国有企業の改革と再編』学文社。
中兼和津次(2000)『中国経済発展論』有斐閣。
日本証券経済研究所(2008)『サーベンス・オクスリー法』日本証券経済研究所。
平田光弘(2008)『経営者自己統治論―社会に信頼される企業の形成』中央経済社。
平田光弘(1982)『我が国株式会社の支配』千倉書房版。
村上幸隆訳(2007)『中国会社法法令集』アイ・ピー・エム。

日本語学術論文
王保樹・朱大明(2011)「中国における独立取締役制度の運用に関する留意点」『監査役』、No.587,8月25日号。
郭新平(2007)「中国における私営企業の企業統治」『応用社会学研究』、No49,pp.185-195。
孔麗(2011)「中国の地方国有企業における企業統治と党(=政府)の関与」『経営論集(北海道大学)』,第10巻,第1号,pp.97-119。
呉暁青(2011)「独立取締役とコーポレート・ガバナンス」『一橋法学』,第10巻,第2号。
徐浩・末永敏和(2012)「中国上場会社の監査役と独立取締役について」『国際商事法務』,Vol.40, No.7。
武立東・楊綿華・渡辺直樹(2007)「中国民営上場企業のコーポレート・ガバナンス-究極の所有者による実質支配とその問題点-」『三田商学研究』第50巻,第1号,pp.173-189。
張英春(2006)「コーポレート・ガバナンス改革の日中比較」『立命館経営学』第45巻,第4号,pp.223-238。
古川順一・容和平・陳藹芳(2006)「中国企業の企業統治-企業アンケートからみる独立取締役制度の実態と課題を中心にして-」『東京国際大学論業 商学部編』第73号,pp. 69-90。
三輪晋也(2006)「日本企業の取締役会と企業価値」『日本経営学会誌』第16号,pp. 56-67。
孟 苓妍(2010)「中国私営企業の発展とコーポレート・ガバナンス」『広島経済大学』,安芸論叢,pp.1-27。

中国語学術著書
栄兆梓(2007)『政治经济学教程新编』安徽人民大学。
何玉長(1997)『国有公司産権結構与治理結構』上海財経大学出版社。李健[1999]『公司治理論』経済科学出版社。
呉家俊(1994)『日本的股份公司与中国的企業改革』経済管理出版社。
廖理編(2002)『公司治理与独立董事』中国計画出版社。
楊瑞龍(2001)『国有企業治理結構創新的経済学分析』中国人民大学出版社。
于东智・王化成(2003)『独立董事与公司治理』会計研究。
張維迎(1996)「所有制・治理結構与委託-代理関係」『経済研究』,1996 年第9 期。
張維迎(1995)「公有制経済中的委託人―代理人関係:理論分析与政策含意」『経済研究』,第4 期。
李維安・武立東(2002)『公司治理教程』上海人民出版社。
劉偉・高明華(1999)『転型期的国有企業重組』上海遠東出版社。
劉連煜(2001)『公司治理与公司社会責任』中国政法大学出版社。
林毅夫・蔡昉・李周林(1998)『充分信息与国有企業改革』上海人民出版社。
梅慎実(2001)『現代法人治理結構規範運作論』中国法制出版社。
王岐岩(1999)『我国公司治理結構的主要問題和改進意見』中国(海南)改革発展研究院編『中国公司治理結構』外文出版社。
虜昌宗(1994)『「司治理結構及新老三会関係論」『経済研究』第11期。

中国語学術文献
袁萍・劉士余・高峰(2006)「关于中国上市公司董事会、監事会与公司業績的研究」『北京・金融研究』。
王保樹編(2000)「経済体制転変中的公司臨的転変」『商事法論集』法律出版社。
刘继伟・于海军・郭洪蓉(2005)「完善独立董事制度的设想」『東北財経大学学報』, No4,
No.40。
郁建興・江華・周俊等(2008)『在参与中成長的。中国公民社会―其宇浙江省温州市紹介的研究』浙江大学研究所。
秦志敏(2004)「强化上市公司独立董事执业独立性的对策」『東北財経大学学報』,No. 6, No.36。
申富平・韓巧艳・赵红梅(2007)「上市公司独立董事選択和退出機制現状分析―以河北上
市公司為例」『石家庄:経済与管理』。
孙泽蕤・朱暁妹(2005)「上市公司独立董事薪酬制度的理论研究及现状分析」『南開管理評論』,Vo8,No,pp.21-29。
唐雪松・申慧・杜軍(2010)「独立董事監督中的動机―基于独立意見的経験証据」『北京・
管理世界』。
王保樹(1998)「股份公司組織機構的法的実態考察与立法課題」『法学研究』,1998年第2号。
王躍堂(2003)「独立董事制度的有効性:基于自愿设立董事行為的初歩評価」『北京・経済科学』。

夏冬林、朱松(2005)「独立董事报酬的决定因素与公司治理特征『南開管理評論』,Vo.8,
論』,No.4,pp.85-96。
许龙德(2005)「我国独立董事制度存在的问题及对策」『東北財経大学学報』, No4, No.41。
楊瑞龍(1997)「論国有経済中的多級委託代理関係」『管理世界』,1997 年第1期。

英語文献
Camerer, C.F.(2003),Behavioral Game Theory: Experiments in Strategic Interaction ,Princeton University Press.
Dickson, Bruce J.(2008),Wealth into Power: The Communist Party’s Embrace of China’s Private Sector, New York:Cambridge University Press.
Fehr, E. and Schmidt, K.M.(1999),A Theory of Fairness, Competition, and Cooperation .Quarterly journal of Economics,114:pp817-868.
Hofstede, G.(1994),Cultures and Organizations, Profile Business.
Jensen, M.C. and W.H. Meckling.(1976),Theory of the Firm; Managerial Behavior, agency Costs and Ownership Structure. Journal of Financial economics 3(4),pp.305-360.
Itoh,H.,(2004),Moral Hazard and Other-Regarding Preferences, Japanese Economic Review,55:18-45.
Kehneman, D. and Tversky, A.(1979),Prospect theory: An analysis of decision under risk Econometrica,47:263-291.
Randall K.Mork(edited).(2007),A History of Corporate Governance Around The World,2.William Goetzmann and Elisabeth Koll,The History of Corporate Governance in China:State Patronage, Company Legislation, and the Issue of Control.2007.NEVER,pp.149-184.
Xu Yongbin,Hu Zjguang(2007),The Control Right,Cash Flow Rights and Corporate Performance of the Private Listed Companies in China,Zhejiang Gongshang University,P.R.

Copyright (C) 2009 RIKA KASHIWAGI. All Rights Reserved.