日中産学官交流機構 中国の不祥事企業はなぜなくならないのか

2016年02月20日

中国の不祥事企業はなぜ減らないのか

講演 2016年2月20日
日中産学官交流機構

中国企業の不祥事はなぜなくならないのか 
中国民営企業における独立取締役の監査・監督機能

政府による様々な政策が施行されているのにも関わらず、中国企業の不祥事は後を絶たない。中国企業 は深圳、上海、香港の証券取引所に上場しており、香港に上場している企業は優良大企業、深圳は製造業、上海は消費関連の企業が多い。証券取引所において不祥事企業を公表しているが、WTO加盟後、民営企 業も急増していることは注視する必要がある。

深圳証券取引所の不祥事企業数は、2013 年は 2010 年に比べ倍増している。2014 年は前年比で半減しているのは、習近平政権による厳しい企業規制が原因と思われ る。組織ぐるみの不正が多い日本と異なり、中国の不正は、個人の私利私欲のため資産を横領するケース が多いという特徴がある。

そこで、政府は不祥事企業を早急に減少するために、2001 年、「独立取締役制度の確立に関する意見 書」において、独立取締役を各企業に二人設置(うち一人は会計士)すること、専門委員会の過半数を独立 取締役が占めること等を義務化した。独立取締役は30時間以上の研修受講後、認定試験に合格者のみ就 任可能である等、世界でも珍しい厳しい規定を定めている。
それにも関わらず、不祥事企業は減っていない。 筆者の調査においては、不祥事企業では 1/9 が会計士の独立取締役を置いていないように、規定を順守し ていない企業も存在する。

業務執行者と監督者の権限が分離されていない等の国有企業の構造問題に加えて、民営企業の場合は、 独裁的経営者の影響が及んでおり外部監督者による監督・監査機能を発揮することが難しい等の問題がある。
さらに独立性の高い、影響力のある独立取締役の人材の確保が難しい。法律では独立取締役は 5 社まで兼任できるため、多忙な兼任者は情報収集が困難であり、肩書き保持の為に経営者に独立的な意見を 言いにくいのが現状である。
独立取締役の報酬は、経営者の報酬と比べて平均で 10 分の1、最大で 70 分の1と差がある。報酬が安いことから不正に対する責任はないと考えている独立取締役が多いことがアンケートから明らかになった。法律上の問題点は、監査役の役割が独立取締役の役割と重複している点、独立 取締役の権限と責任が明確化されていない点である。

(1) 監査委員会における独立取締役の監査機能
英米型の企業統治構造である中国では、監査の役割は監査委員会が担う。監査委員会に監査能力のある会計士の独立取締役が構成員であり、政府、創業者等が構成員でなければ監査機能の実効性は高いとみられる。

独立取締役の監査機能が最も高かったのは政府関与が最も少ない「参入撤退自由業種」の製造 業等の分野であるが、創業者や家族が監査委員会の構成員である企業が多く、監査機能は期待できない。
独立取締役の監査機能が高く政府の関与、創業者の関与がみられないのは、政府の関与が中位で「支配 一層強化業種」の新エネルギー、医薬製造、電力等の分野だけであった。

(2) 独立取締役による不正経営者への抑制効果
独立取締役が研修を受講せずに就任した場合は、処分され、名前を公表される。
また再任後も2年ごとに 研修受講が義務化されているが、近年、独立取締役の処分が増えている。

深圳の不祥事企業 61 社のうち、 独立取締役が処分された大規模な不祥事が 11 社あった。
しかし、筆者のアンケートでは、独立取締役が処分されることは稀であると考えている独立取締役が多かった。
深圳市場の不祥事企業 61 社を調査した結果、「参入撤退自由業種」と「支配一層強化業種」に不祥事企 業が多く、独立取締役の役割は、殆ど機能していないことが明らかになった。
然し、香港市場では、独立取 締役の監査の機能が高い業種は不祥事企業が少なく、独立取締役の監査・監督機能の効用があると考え られる。また優良企業と不祥事企業を比較すると優良企業のほうが独立取締役の比率が高く、政府所属者 の比率が低かった。
しかし会計士の比率や処分人数、処分回数等との関連性はみられなかった。優良企業 は外国人投資家も多く英語の情報公開、企業統治も進んでいたが、不祥事企業の多くは中国語版だけで、 監査委員会の情報公開も少なかった。

アンケート調査結果からは、民営企業、国有企業の独立取締役ともに主な役割が監査・監督機能と認識 しており、研修でも監査・監督機能について十分な説明を受けていた。
しかし、中国の会社法には、取締役 の義務に関して最低限の原則的な規定しかなく(59 条~63 条)、制裁については規定していない。民事賠 償責任には、規定がほとんどなく、司法解釈さえないため独立取締役が責任を問われる例は少ない。
証券 取引所が実施する研修では、「独立取締役は企業の違法行為を知った時点で証監委、国資委に訴えること ができ、取締役会で拒否権を行使すれば、独立取締役の責任は追及されない。議案に問題があれば拒否 権を行使、棄権も可能」と説明されている。
ところが、アンケートの実態調査からは、政府、ワンマン経営者か ら圧力がかかり反対意見を述べている独立取締役はほとんどいない。

結論から言うと、民営企業において、独立取締役が監査・監督機能を発揮しているのは一部の業種のみである。
不祥事企業の多い市場においては、その効用はみられなかった。

一方、優良大企業が多い香港市 場に上場している中国企業で、独立取締役の監査・監督の効用がある業種には不祥事企業が少なく、独立 取締役の効用がみられた。独立取締役比率が高い方が不祥事企業になりにくいが、6 割以上の株式を保有 するワンマン経営体質の企業では抑制効果がみられなかった。
不祥事企業になりやすい企業、企業統治の 重要さを認識していない企業こそ、独立取締役の監査・監督機能の発揮が必要であるが、実態は、独立取 締役の設置は形式的なものにとどまっている。
昨年から上場企業を監督する証券取引所の権限が強化され、不祥事企業の銀行口座の調査・凍結など が可能になった。
それらが少しでも今後の不祥事企業の企業統治の改善、経営者の不正への意識の向上 とともに独立取締役の監査・監督能力の発揮につながるよう期待したい。

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