悲惨な中国のスポーツ選手

正論 9月号(8月1日発売号)
2008年08月01日
 先日、北京の繁華街にある最大規模の書店「王府井書店」に出かけた。書店にはサッカーやバレー、バスケットボールなどあらゆるスポーツ競技のルールブックが平積みに並んでいる。MBA(全米プロバスケットボール協会)選手、姚明が表紙に登場している雑誌なども多い。五輪のためにスポーツコーナーが拡大しているのだ。

ところが書店のレイアウトもむなしく市民はスポーツには興味がないというから驚く。

 日本のように「スポーツ選手になりたい」という子どもに遭遇することは少なく、「給料も安く将来の保証がない選手にはなりたくない」というシビアな目で見ている。

 その親も同じだ。よっぽど貧しい家庭でない限りスポーツ選手になぞさせたくないから、あえてスポーツをすすめない。
 それに30代以上の人は学校の体育の授業でスポーツを体験してないからサッカーやバレーなどのルールがわからずじまい。むろんテレビを見てもおもしろくない。数年前からやっとスケットボールのシュート用の設備やテニスコートの設備が公園内につくられ10代の子どもたちが遊んでいる風景がみられるようになった。でも親は子どもとキャッチボールをするなんてもってのほか。へたくそすぎて面子がつぶされる。そのうえ選手の現実は厳しい。

① 給料が安い
 都市部の会社員平均月収が1万5000円を超えているのに、多くの五輪選手は月収1万円ほどでしかもらえない。

② コーチや政府に返納

 政府は小学入学時から体格のいい子どもに目をつけ、体育専門コースに入れる。大学を訪問すると大きな看板に共産党員の指示内容が掲げられている。そこでは共産党員としての教えを叩き込まれるのだ。

 結局、スポンサーから1000万円の車やCM広告料のギャラをもらってもコーチや政府に吸い取られることが多く、政府への絶対服従さは他の20代の会社員よりも根強く残っているのだ。

 ついに農村地区の実家に帰りひきこもりになってしまった選手もいれば、タクシーの運転手になったり、日雇い労働者になった例もある。
 そんなあまりにも悲惨な生活苦が地元の新聞などに取り上げられたことがある。同じ専門学校で知り合った男性と結婚したら元選手同士。メダル獲得してもコーチの道も少ない。外国からコーチとして訓練を受けた優秀な人がわんさか教育されている。手に技術があるわけでもないから、夫も妻も職を失った。地元新聞などに何もしてくれない政府への怒りをぶちまけた。市民からの批判も湧き上がり、最近は一部の元選手に手当てを払いはじめた。

 環境、人権、食料品問題など批判され続けている中国政府は、なんとしてでも金メダル獲得数一位として挽回されたいところだ。そのため選手のモチベーションをあげたい。賞金の金額を増やしている。しかしそれでもいくら賞金を増やしても返納金として、多くを政府に渡さなければならないから選手たちの生活はいっこうによくならない。

 それに日本のようにスポーツ選手からタレントに転身することも中国ではタブー。政府の管理下から外れた選手は、軽蔑され、評判が落とされることもある。

 もっと悲惨な例もある。

 五輪にもでられなかった、プロになれなかった人は就職先がない。小学校からの体育専門学校では普通の勉強をさせないから、事務職などの仕事につけない。日雇い労働者など工事現場などで働くか農業に戻る道しかないのである。
 本屋にはスポーツ競技についてルールブックが並んでいる。市民教室としてルール教室が開かれている。しかし、必死でルールを覚えさせなければならない政府の必死の対策もむなしく、市民は覚めている。選手たちの栄光より、観客のマナー違反が注目されないよう祈りたい。
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