経済社会学会 第44回全国大会予稿集(3000文字)中国の鉄鋼産業の構造産業からみる中央と地方の格差問題

― 柏木理佳(嘉悦大学) ―
2008年09月28日
 中国の鉄鋼の生産量は、2007年には4億8900万トンに達し世界全体の36.4%を占めるほどになった。過剰な生産に対して政府は抑制政策を掲げたものの効果があるとはいいがたい。このような状況は鉄鋼産業だけではなく、国有企業から民間企業への移行している段階である電解アルミ産業・鉄合金産業・コークス産業・カーバイド産業・自動車産業などにおいても、経済引き締め政策を実施しても生産の抑制ができていない。
 量的供給能力は世界一になったが問題点を多く抱えている鉄鋼産業の構造問題は、中国全体が抱えている問題点とも重なる。その背景は、中央政府と地方政府の構造問題における関係性を意味している。例えば政策に違反している地方の企業が、税収によって存続しているような財政難に陥っている地方政府との癒着関係が続く限り淘汰されない状態が維持されている。
 とりわけ成長国において、鉄鋼産業は一般的に基幹産業に位置づけられることが多く、各種消費財の「世界の工場」と化している現在の中国では、国内及び輸出の需要も大きく、結果的に多数の労働力を必要としている。しかしながら、先進国のような生産技術を持たず、自動化や省力化などのFA(FACTORY AUTOMATION)化が進んでいない状況では、生産量の増加に対応するためには、必然的にマンパワーにより支えるしかなく、またこの人的資源的需要が、結果的に労働賃金が低い農村部や、内陸部の都市において鉄鋼産業が十分に成立する要因ともなりえる。
 この関係性は、農村部が抱える低賃金の労働者を労働力として基幹産業に提供し、また低賃金労働で鉄鋼産業を支えるという形で、前述の構造問題において、低賃金の労働力と生産性のバランスをとる形で、両者の関係を維持する結果となっている。
 例えば、上海に存在する中国最大手の上海宝鋼を取材したところ、世界でもトップの生産規模と技術力を誇る。まさに海外への輸出によって成長した中国経済を担う大手企業である。しかし全体の7割を占めている中小の鉄鋼企業の設備は旧式で採算性も悪く技術力もなく雇用環境も悪い。政府は集約化を促進しているが、財政難に陥っている地方政府が、税収入の期待ができる地方の企業を淘汰することはできないのが現状である。

このような問題は労働集約産業的な鉄鋼業界において顕著に現れているが、労働集約という形態が、農村部ないし地方との格差を生産力としてしまう矛盾となっている。

 また環境問題や倫理的問題においても、地方に存在する企業において違反企業が多い原因も中央と地方の構造問題が原因であるといえる。さらに、多くを占める中小の鉄鋼企業では、生産技術上の革新や設備投資が行われていないため、排出ガスに含まれる硫黄酸化物除去などの環境問題への取り組みがなされず、これは先端技術の利用を可能とするような人的資源の不足を意味している。
 まず都市部と地方では人的資源に大きな格差がある。例えば教育格差、所得格差などがある。また人口分布の偏りにより都市部にエリートが一極集中し、地方において格差における弱者層の増加がみられる。この背景には不平等な大学進学などの制度、都市部重視型の政策といった構造問題がある。さらに省庁間の縦割りのシステムが複雑であることがあげられる。
 一部のエリートの中国人においては欧米に留学し技術力を習得しているものの、地方においては多くの中国人が国際競争力を有するような義務教育さえ受けていない人が多い。仮に受けている人でも技術力のレベルは先進国のそれに達していない。つまり人的資源の格差が同じ産業においても、大企業と中小企業では技術力、つまり産業間の格差となって現れている。しかし技術力の低さは現在の中国においては必ずしも悪いことだけではなく中国経済が成長している段階において、地方の鉄鋼企業のような製造コストを安くするため、技術力は高くはないが、低賃金で雇用できる労働力層は需要を満たすことになる。この人的資源の問題は、鉄鋼の需要が高い経済成長の下ではしばらく続くことが予測され、是正し難いといえる。
 中国における貧富の格差においても、中央と地方の構造問題が原因であるといっても過言ではない。地方に存在する非効率で公害の原因になる企業によって地方の住民は被害を受けている。

 
中国における過剰生産は、世界の鋼材市況の不安定さを促し、貿易摩擦を悪化する。また原材料価格高騰や環境問題をも引き起こしている。鉄鋼産業が最も多くの二酸化炭素(CO2)排出量があることからも、採算性をあげることに政府も注目している。鋼材に対する輸出増値税の還付率の引下げ、輸出税の賦課などの対策をだしてはいるが、いまだその効果は十分とはいえず鉄鋼の生産量は増加しているのが現状である。

 環境汚染対策は国家環境保護総局が管轄しているが、廃棄物処理・環境経済は国家発展・改革委員会、リサイクルは商務部、都市ゴミ処理は建設部にわかれている。これは地方企業と地方政府などの癒着関係、監督するべき省庁の役目が崩壊していることが示唆される。

 人的資源、生産技術レベル、環境問題への取り組みにおいても先進国と比較してもそういった格差は明確にあらわれている。例えば環境における国際認証の尺度の一つであるISO規格を例にとっても、上海宝鋼など大企業においては環境においての国際基準であるISO14000を取得しているが、地方の企業では3割にも満たないことから環境への配慮がなされていないことが明らかである。

 政策を本格的に実行するためには分離化された地方財政の解決が必要といえる。さらに根本的な原因は中国における改革の進め方が社会的影響の少ない、急進的な改革を避ける漸進主義であることで、それによって政策の浸透は急速には進まない。

 中国経済は先進諸国に比較すると市場経済が完全ではなくまだ未熟な状態である。完全に民営化し市場経済が浸透すれば市場メカニズムが働くことで生産量は抑制されるが、市場経済が緩やかに発展している段階において地方政府が中央政府に完全に管理されるといった中央政策の威令が及ぶわけではない。

 地方と中央の格差問題とともに構築システムに問題がある。国有企業の経営メカニズムを改善し市場経済を早急に促進し、法律の整備と充実を図ることが早急に必要である。

 本論文では、鉄鋼産業においての現状と問題点を分析し、さらに発展政策を掲げても抑
制できない中央政府と地方政府の背景と原因を検討し若干の示唆をする。また都市部にある大企業と地方に存在する企業の人的資源の格差が、雇用構造と技術力不足による環境悪化に及ぼす影響について言及する。

 特に鉄鋼産業においての現状と問題点を分析し、さらに発展政策を掲げても抑制できない中央政府と地方政府の背景と原因を検討し若干の示唆をする。また都市部にある大企業と地方に存在する企業の人的資源の格差が、雇用構造と技術力不足による環境悪化に及ぼす影響について言及する。

(嘉悦大学)
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